「たたる」は,
祟る,
と当てる。「崇」(スウ,あがめる)と紛らわしいが,「祟」(スイ)の字は,
「会意兼形声。『示(かみ)+音符出』。神の出してくるたたりをあらわす」
とある(漢字源)。「示」(呉音ジ・ギ,漢音シ・キ)の字は,
「象形。神霊の降下してくる祭壇を描いたもの。そこに神々の心がしめされるので,しめすの意となった。のちネ印に書かれ,神・社など,神や祭りに関することをあらわす」
とある。「祟」も,神意を「示」すもの,ということになる。
「たたる」は,したがって,
神仏・怨霊・もののけなどが禍をする,
意であるが,一般化して,
害をなす,
したことが悪い結果をもたらす,
という意味になる。類義語「呪い」と比較して,「祟り」は,
「神仏・妖怪による懲罰など、災いの発生が何らかの形で予見できたか、あるいは発生後に『起こっても仕方がない』と考えうる場合にいう(『無理が祟って』などの表現もこの範疇である)。」
これに対し呪いは,
「何らかの主体による『呪う』行為によって成立するものであり、発生を予見できるとは限らない。何者かに『呪われ』た結果であり、かつそうなることが予見できたというケースはあり得るので、両概念の意味する範囲は一部重なるといえる。」
とあるが,違うのではないか。予見できるかどうかではなく,「神」ないし「怨霊」側の意志である,つまりコントロールできない受身であるのに対し,「呪い」は,呪う主体が意志として害を成そうとするもので,重なるという意味がよく分からない。
「呪ひ(い)」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/403152541.html?1558137465で触れた)は,
「のる(告)に反復・継続の接尾語「ヒ」のついた形」
であり(岩波古語辞典),
恨みのある人などに悪いことが起こるように神仏などに祈る」
ので,あくまで主体的な行為に端を発する。それを聞き届けてくれるかどうかは,神仏の意思次第,といういみでは,結果としてたたりと重なるといえるが。大言海は,
「祈る上略延」
とし,
とこふに同じ,
とする。「とこふ(詛)」は,
説き悪しかれと請う意,
である。主体的な行為である。
(葛飾北斎 百物語・お岩さん 東京国立博物館蔵 http://www.photo-make.jp/hm_2/hokusai_kisou.htmlより)
「たたる」を,大言海は,
「絶つのタに,敬語助動詞のルルの付きて(絶ちたまふの意),四段活用に変じ,自動となるものなるべし。たばる,たまはるの例。受身あれど,はぶかる,だかるの例あり」
とする。「たつ」が,「絶つ」でなく,
タツ(顕つ),
とし,
「タツ(顕つ)+アリ」で,たち現れる,
とする(日本語源広辞典)のほうが納得できる。「たつ」(http://ppnetwork.seesaa.net/archives/20140615-1.html)は,触れたように,
ただ立ち上がる,
という意味以上に,
隠れていたものが表面に出る,
むっくり持ち上がる,
と同時に,それが周りを驚かす,
変化をもたらす,
には違いがない。
立つ,
には特別な意味がある。「立つ」は,
起つ,
であり,
顕つ,
である。
「自然界の現象や静止している事物の,上方・前方に向かう動きが,はっきりと目に見える意」
とある(岩波古語辞典)。だから,
タチアリ(立在)の義(名言通),
タタリ(立有)の義(日本語源=賀茂百樹),
タツル(立)に対する自動詞形で,祈願を立てて事を成就することをいう立たるの転義(国語の語根とその分類=大島正健),
示現の義のタタル(現)から(みさき神考=柳田國男・幣束から旗さし者へ=折口信夫),
と,
現れ,
立つ,
と関わる説に与したい。
なお,たたりについては,
怨霊(http://ppnetwork.seesaa.net/article/407475215.html),
累(http://ppnetwork.seesaa.net/article/435019321.html),
こんな晩に(http://ppnetwork.seesaa.net/article/432653855.html),
でも触れた。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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