草
「草」(ソウ)の字は,
「形声。『艸+音符早』。原義は,くぬぎ,またははんのきの実であるが,のち,原義は別の字であらわし,草の字を古くから艸の字に当てて代用する」
とある(漢字源)。別に,
「形声文字です(艸+早)。『並び生えた草』の象形(『くさ』の意味)と『太陽の象形と人の頭の象形』(人の頭上に太陽があがりはじめる朝の意味から、『早い』の意味だが、ここでは、『艸(そう)』に通じ、『くさ』の意味)から、『くさ』を意味する「草」という漢字が成り立ちました」
とある(https://okjiten.jp/kanji67.html)。
「くさ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/448822496.html?1558388428)については触れたことがある。
「くさ」の語源を,大言海』は,
「茎多(くくふさ)の約略なりと云ふ説あり」
とのみ紹介する。「草」の語源説は,
カサカサ,グサグサという音から(国語溯原),
キ(木)と同源語で,ケ(毛)から分化したもの(日本古語大辞典=松岡静雄),
キ(木)と同根のクに接尾語サをつけたもので,サは柔らかく短小であることを表す(語源辞典・植物篇=吉田金彦),
クサフサ(茎多)の約略か(古事記伝・大言海),
年毎に枯れてクサル(腐る)ものであるから(日本音声母伝・名言通,和訓栞・言葉の根しらべ)
「神農百草をなめそめられし」とあることからクスリのサキという義か。またはクサシ(臭)の義か(和句解),
クサグサ(種々)の多い義(日本釈名),
カルソマの反。ソマは,茂ることによせて杣の義(名語記)
等々ある。ひとつは,「木」との区別で,
キ(木)と同根のクに接尾語サをつけたもので,サは柔らかく短小であることを表す,
という説とほぼ同じなのが,
「『く』は『木』が『コ』『キ』『ク』と母音変化することから,『茎』の『く』と同じく『木』を表したものと考えられる。『さ』は接尾辞『さ』で,木が堅くて大きく真直ぐなのに対して,草は柔軟で短いことから,木と区別するために加えられたものであろう」
とする(語源由来辞典)説である。接頭語「さ」も,
小百合,
狭衣,
等々用いるが,狭,小は借字で,
「ちいさき意はなし,せまき意にもあらず」
とあり(大言海),「語義不詳」(岩波古語辞典)なので,「ちいさい」「短い」意ではありえないが,接尾語「さ」は状態・様と同義とされるから,「さ」の助辞を,「木」と区別する意図とするのは,可能性としてはありえる。
他方,「木」とつなげようとする,
キ(木)と同源語で,ケ(毛)から分化したもの,
とする説は,「木」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/466652585.html)で触れたように,「木」の語源に,
ケ(毛)の轉。素戔嗚尊のなげた毛が木になったという伝説から(円珠庵雑記),
木は大地の毛髪であるところからか(日本古語大辞典=松岡静雄),
という説があり,「木」も「草」も「毛」とつなげる考え方は,あるかもしれない。しかし古代人にとって,「草」と「木」は区別されたのではないか。とすると,その差は何か。
前にも触れたことと重なるが,
年毎に枯れてクサル(腐る)ものである,
とする説が気になる。「ふてくさる」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/440846962.html)で触れたが,「腐る」の語源には諸説あるが,
「草+る」で,草が腐敗する意,
「臭+る」で,糞と同源。匂って腐る意,
「朽+る」で,朽ちていく意,
「クサ(ぐちゃぐちゃ)+る」で,擬態語の意,
等々あるが,「腐る」は,
「クサシ(臭)・クソ(糞)と同根。悪臭を放つようになる意」
とあり(岩波古語辞典),どちらかというと,草の朽ちるイメージではない。ただ,
「『くそ』も『くさる』もしくは『くさい』から生じたと考えられる」
というように(語源由来辞典),「くさい」から来ている。「くさい」は,
「クサリ(腐),クソ(糞)と同根」
とあるので,「くさる」は,「くさい」から来ている。その「くさる」を
草,
に当てるとは思えない。消極的だが,「木」と「草」を関連づけた説ということになる。
「木」の項で触れたように,音韻的にも,「木」と「毛」とは,
kë→kï,
と転訛がありそうなのだから。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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