「秋」は,
二十四節気に基づく節切りでは立秋から立冬の前日まで,
旧暦(太陰暦)による月切りでは七月・八月・九月,
である(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A7%8B),とか。「秋」の別名には,
高秋(コウシュウ:空が高く澄みわたる秋)
素秋・白秋(ソシュウ・ハクシュウ:五行思想で秋=金=白より)
白帝(ハクテイ:秋を掌る神のこと)
金秋(キンシュウ:秋=金)
三秋(サンシュウ:初秋、仲秋、晩秋の三つの秋)
九秋(秋の九十日間=三か月のこと)
等々がある(仝上)。なお,金風(秋風),白芽子(あきはぎ)と,
「万葉集で秋に『金』の字を当てるのは五行説による。『白』の字は西方を示し,季節では秋を指す」
とある(岩波古語辞典)。
因みに,万物は火・水・木・金・土の5種類の元素からなるという五行説では,
木(木行) 木の花や葉が幹の上を覆っている立木が元になっていて、樹木の成長・発育する様子を表す。春の象徴。
火(火行) 光り煇く炎が元となっていて、火のような灼熱の性質を表す。夏の象徴。
土(土行) 植物の芽が発芽する様子が元となり、万物を育成・保護する性質を表し,季節の変わり目の象徴。
金(金行) 鉱物・金属が元となり、金属のように冷徹・堅固・確実な性質を表し,収獲の季節秋の象徴。
水(水行) 泉から涌き出て流れる水が元となり、命の泉と考えて、胎内と霊性を兼ね備える性質を表し,冬の象徴。
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%94%E8%A1%8C%E6%80%9D%E6%83%B3)。
「秋(穐・龝)」(漢音シュウ,呉音シュ)の字は,
「会意。もと『禾(作物)+束(たばねる)』の会意文字で,作物を集めてたばねおさめること。穐は『禾(作物)+龜+火』で,龜を火でかわかすと収縮するように,作物を火や太陽でかわかして収縮することを示す。収縮する意を含む」
とある(漢字源)が,よく分からない。別に,
「会意兼形声文字です(禾+火+龜)。『穂の先が茎の先端に垂れかかる』象形(『稲』の意味)と『燃え立つ炎』の象形(『火』の意味)と『かめ』の象形(『亀(かめ)』の意味)から、カメの甲羅に火をつけて占いを行う事を表し、そのカメの収穫時期が『あき』だった事と、穀物の収穫時期が『あき』だった事から『あき』を意味する『秋』という漢字が成り立ちました。」
ともある(https://okjiten.jp/kanji92.html)が,殷時代の文字を見ると,龜の感じではない。
「元の字を『龝』+『灬』につくり、穀物につく『龜』(カメではなくイナゴ)を焼き殺す季節の意(白川)」
とある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%A7%8B)のが正確ではあるまいか。
(殷・甲骨文字 仝上)
さて和語「あき」は,
「秋空がアキラカ(清明)であるところからか。一説に,収穫がア(飽)キ満チル意,また,草木の葉のアカ(紅)クなる意からとも」
とある(広辞苑)が,どうも語呂合わせに思えてならない。
(歌川広重 東都名所 高輪之明月 https://www.adachi-hanga.com/ukiyo-e/items/hiroshige012/より)
しかし,日本語源広辞典も,似た三説を挙げる。
説1,アキ(空き・明き)。収穫された稲田が,遮るものがなく,空白で明るくなる季節。稲田に水を張るは季節-春に対し,稲田が「アキ(空き・明き)」になる季節,
説2は,五穀熟して飽き足る季節のアキ,
説3は,明らかな季節のアキ,
どうもこじつけが過ぎるように思える。同じ語呂合わせなら,
「黄熟(あかり)の約と云ふ(逆虎落(さかもがり),さかもぎ)」
とする(大言海)方が,言葉に陰翳ありそうである。「あかる(赤)」は,
赤らむ,
熟(あか)む,黄熟,
の意である(大言海)。さらに「あかる(赤)」は,
赤し,
の自動詞形であり,
あかる(明),
と同根とある(岩波古語辞典)。「あかる(明)」は,
明るくなる,
意だが,たとえば,
「やうやう白くなりゆく山際少し明かりて」(枕草子)
の「明かり」は,
「赤くなる意ともいう」
とある(岩波古語辞典)。つまり,空が明けるとは,空が赤くなる意なのは,しののめ空を思い起せば,自明である。
要は,語呂合わせで,「飽き」説,
食物が豊かにとれる季節であることから,アキ(飽)の義(東雅・南留別志・和訓集説・百草露・名言通・古今要覧稿・嚶々筆語・和訓栞・柴門和語類集・言葉の根しらべの=鈴木潔子),
アキグヒ(飽食)の祭の行われる時節の意から(祭祀概論=西角井正慶・文学以前=高橋正秀),
空の明らか説,
天候のアキラカ(明)なことから(日本釈名・滑稽雑誌所引和訓義解・古今要覧稿・本朝辞源=宇田甘冥・神代史の新研究=白鳥庫吉),
空き説,
草木の葉のアキマ(空間)が多いの意(類聚名物考・俚言集覧),
アク(開)の義(東雅),
等々あるが,言葉の自然な転訛を考えるなら,
草木が赤くなり,稲がアカラム(熟)ことから(和句解・日本釈名・古事記伝・言元梯・菊池俗語考・大言海・日本語源=賀茂百樹),
ではないか。
黄熟(あかり)→赤かり→明かり,
と通じる。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:秋