「蟻」(ギ)の字は,
「会意兼形声。『虫+音符義(形がいかめしい,礼儀正しい))』」
とある(漢字源)。「義」(ギ)の字は,
「会意兼形声。我は,ギザギザとかどめのたったほこを描いた象形文字。義は『羊+音符我』で,もと,かどめのたったかっこうのよいこと。きちんとしてかっこうがよい認められるやり方を義(宜)という」
とある(仝上)。「我」(ガ)は,
「象形。刃がぎざぎざになった戈(ほこ)を描いたもので,峨(ぎざぎざと切り立った山)と同系。『われ』の意味に用いるのは,我の音を借りて代名詞を表した仮借」
とある。「羊」(ヨウ)の字は,
「象形。羊を描いたもの。おいしくて,よい姿をしたものの代表と意識され,養・善・義・美などの字に含まれる」
とある。こう分解しても,「蟻」の字の由来は,正直分からない。少なくとも,「蟻」に,
かっこよさ,
きちんとしている,
を見たらしい。
和語「あり」は,大言海が,
「穴入りの約といふ説あり,むづかし」
とする。この説とは,
アナイリ(穴入)の義(言元梯),
を指しているのだろう。
日本語源広辞典は,
ア(合・相)+り(虫の意の接尾語),
とし,力を合わせる虫,とする。同じ生態から,
多く集まる虫であるから,アツマリの中略(日本釈名・日本語原学=林甕臣),
よくアリク(歩)ものであるから(和句解・柴門和語類集・日本語源=賀茂百樹),
等々。その形態から,
アは小の意。リは助け詞。小虫の義(東雅),
前後のくびれがアル(有)ことから(和訓栞所引沙石集),
語呂合わせに近い,
アリ(有)の義(名言通),
等々がある(日本語源大辞典)。その他,
アリク(歩く)とアリ(有り)の…二説から派生したアシアリ(脚有)の意味とする説もある。
とする(語源由来辞典)もあるらしい。
自然に考えると,
多く集まる虫であるから,アツマリの中略,
よくアリク(歩)もの,
という生態からというところではあるまいか。ま,はっきり分からない。
ただ,「あるく(歩)」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/450998494.html)で触れたように,「あるく」は,
ありく,
ともいい,
「人間以外のものの動作にも用い,乗物を使う場合もいう。平安女流文学で多く使われ,万葉集や漢文訓読体では『あるく』が使われる」
とある(広辞苑)。さらに,
「あちこち動きまわる意。犬猫の歩きまわること,人が乗物で方々に出かけてまわることにもいう」
とある(岩波古語辞典)ので,「あるく」に比べ,視点が上がって,つまり概念化された言葉に見える。「蟻」とつながるかに見えるが,
「上代には,『あるく』の確例はあるが『ありく』の確例はない。それが中古になると,『あるく』の例は見出しがたく,和文にも訓読文にも「ありく」が用いられるようになる。しかし,中古末から再び『あるく』が現れ,しばらく併用される。中世では,『あるく』が口語として勢力を増し,それにつれて,『ありく』は次第に文語化し,意味・用法も狭くなって,近世以降にはほとんど使われなくなる。」
とあり(日本語源大辞典),
ありく→あり,
という説は,時代が平安期となるので,比較的新しい言い回しであることが,難点。日本語の語源は,全く別の視点から,
「日盛りの活動的な生態を見て,ハタラキ(働き)虫と呼んだ。ハタ[f(at)a]の縮約,ラキ[r(ak)i]の縮約とでハリになった。さらに,ハが子交(子音交替)[fw]をとげてワリになり,[w]を落としてアリ(蟻)になった」
とあるのは,考え過ぎではあるまいか。この変化にどうも必然性を感じない。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:蟻