2019年06月13日

日本社会の祖型


水林彪『封建制の再編と日本的社会の確立』を読む。

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本書は日本通史の中の一巻で,戦国時代(十六世紀)から江戸末期(十九世紀半ば)までの四百年間を扱う。そのテーマは,表題,

封建制の再編と日本社会の確立,

である。二つのテーマが語られている。一つは,

封建制の再編,

である。その意味は,第一に,

「戦国大名権力の形成に始まり,,統一権力と其の下での幕藩制的大名権力の成立に至る歴史が,中世封建制を再編成し,封建制をよりいっそう強固に再構築する過程であった」

こと,具体的には,

「畿内近国の戦国大名織田信長の権力が成長・発展し,後継の豊臣権力において,戦国大名権力が幕藩制的大名権力へ,さらには他の戦国大名を幕藩制的大名権力へと強制的に鋳直すところの統一権力へと飛躍するという形で現出した」

その意味の第二は,

「織田・豊臣権力,その跡を継いだ徳川権力の全国統一権力が,戦国大名権力を含む戦国社会全体を再編成し,戦国大名権力とは質的に区別される幕藩制的な質をもって封建制を再構築した」

それは,端的には,

兵農分離,

を基礎とする封建制を打ち立てた,ということである。それは,すべての武士が,大名から下々の武士までが,

鉢植化,

し,本領を喪失したことだ。その嚆矢は,後北條滅亡後の関東六カ国へ国替えされた徳川家康に見ることが出来る。

「国替えは,豊臣権力の徳川大名権力に対する介入であり,秀吉の家康に対する支配を強化する措置であったが,このことは,徳川氏が家臣団に対して支配を強めてゆく重要な画期」

でもあった。具体的には,

「家臣団の本領の喪失と新領国での上からの知行割…によって土着の領主・土豪層は,いわば鉢植えの武士となった」

のである。同時に,太閤検地によって測り直された知行地の石高は,その武士が,

「負担する軍役量は宛行われた石高を基準として決せられる」

ことになる(たとえば,知行石高百石について五人の動員という比率で軍役を課された)。つまり,封建制の再編とは,

「全国土はいったんは秀吉(後には徳川)のものとなり,それがあらためて諸大名に恩給される」

という形を取り,

「父祖伝来の本領地の否定を意味し,さらに,領主と領民との個別的な人的支配従属関係(被官主-被官関係)の禁止を意味する」

のである。鉢植化とは,もはやすべての武士がその土地への所有権を失っているということである。それなのに,落下傘のように転封された大名が,その土地の主である農民から当然の如く年貢を徴収する仕組みということである。

本書のもう一つのテーマ,

日本的社会の確立,

の第一の意味は,

「戦国期から統一権力の形成期にかけての封建制の再編成・再構築が,例えば,西欧の封建制の歴史と比較して独特であり,その結果としてできあがった幕藩体制が特殊日本的な性格を有しているということである。」

さらに,幕藩体制は,

「同時代の中国とも根本的に異なるものであった」

ことである。

第二の意味は,

「近現代の日本社会の祖型が,近世社会,特にその後半期の幕藩体制社会のうちに見いだされる」

ことである。たとえば,

「人々が,家族・村・企業などの諸団体に強く組み込まれていること,それらの諸団体が緊密に統合される形で国家が成り立っていることが挙げられるが,このような秩序の形式的特徴,すなわち人々の中間諸団体への強い組み込まれ現象と中間団体を介しての緊密な国家的統合は,実はすでに幕藩体制において確立していた」

ことであり,さらに,国家,そして,これと関連する法についての観念に関しても,

「今日の日本人には,法といえば,人の権利を守るもの斗りも,国家が人々の自由を束縛するための命令と観念する人が多く,それでいて,国家を拘束する法よりも,自由に行政活動を行う国家に対して信頼を寄せるという現象が強くみられるが,そのような国家や法についての観念は,幕藩体制において,それ以前の中世的法観念を否定することによって確立したものである」

という。戦国期にあったのは,

非理法権大,

という観念であった。

非は非道,理は道理,法は法度,権は権力,天は天道,

権力は天道に反すれば滅ぶ,

というものであり,中世には,ムラは,

自力救済,

という,

「ムラどうしが領主権力を排して紛争を解決する」

秩序を有していた。幕藩体制はその否定の上に成立している。今日,まだ,

お上意識,

が根強く,お上に逆らうことに抵抗する心性,いわば,

奴隷心性,

は,豊臣,徳川と続き,その土壌の上に成り立った明治にも引き継がれた体制の「蒙古斑」に思えてならない。

参考文献;
水林彪『封建制の再編と日本的社会の確立』(山川出版社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:49| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする
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