2019年06月16日

ざら


ざらにある,

という「ざら」である。

世の中に多くあってめずらしくないさま,

の意で使うことが多いが,他に,

いくらでも,
むやみやたらに,

という意があり,江戸時代後期の戯作者の山旭亭主人が「五臓眼」で,

「てのとどくだけくめん十めんしてざらに居つづけに置いたり」

と使ったという。そこから,

有り触れている,

意に転じた,とする説がある(https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1094201750)。そして明治期に,

「もう今頃は銀座辺でざらに売つてゐるに違ない」(森鴎外:雁)
「それは勿論ざらに人に見せられるものでない」(福沢諭吉:福翁自伝)

等々という使ったというのである。

「ざら」には,

ざらざらしていること,

の意があり,

ざらざら,

の「ざら」だけで使う場合である。

固く小さな物語,または粒状の者が混じりあったりながれる時の音

という,「小銭がざらざら」のような擬音語でもあり

物の表面がなめらかでない様子,

という,「ざらざらする」のような擬態語でもある。「ざら」だけを,

ざらめく,
ざらつく,
ざらっぽい,

と使うケースもある。「ざらめ」は,

粗目,

とあて,

ざらめゆき(粗目雪),
ざらめとう(粗目糖),

と使うし,

ざらがみ(ざら紙),

の「ざら」でもある。これらは,「ざらざら」から来ている。では,ありきたりの意の

ざら,
ざらに,

は,何処から来たか。「ばら」に,

ばら銭,
小銭(こぜに),

の意があり(精選版 日本国語大辞典),そこから,

「バラ銭や小銭を江戸時代では『ざら』と呼ぶことがあり、たくさんあり珍しくない、という意味に使われたということです。小銭を『ばら銭(散銭)』という言い方があり、『ばら』→『ざら』に変わったかもしれません」

とか(https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1094201750),

「江戸時代に小銭のことを『ざら銭』と言った。財布の中から、小銭の『ざら銭』がザラザラと出てくるのは
珍しくもない日常ありふれたことである。そこから、日常茶飯事のごくありふれた事柄について『ざら』という表現が使われるようになってきたという。」

とか(http://kuwadong.blog34.fc2.com/blog-entry-2716.html?sp),の説がある。

大言海は,「ざらざら」の項で,

手触りの滑らかならぬ状に云ふ語,
ザラザラする物の,触れ合ふ音にも云ふ,

と。擬態語・擬音語の外に,

緡(さし)に括らず,零亂の錢を,ザラ錢と云ひ,錢を,ザラにて渡すなど云ふ。金銭をザラニ遣ふとは,濫費(むだづかひ)するなり,粗末に費やすなり,

と載り(因みに,緡とは,日本の銭(穴あき銭)を束ねる紐・藁のこと。銭緡(ぜにさし),銭貫(ぜにつら)とも言う。さしを使って一定枚数を束ねた銭を貫と言った),

そんな物はザラニあるなど云ふは,粗末なるものと見做すなり,在りふれたる意,いくらもある意に云ふ,

と付言する。どうやら「ざら」が,

ざら錢,

由来を言っているらしい。しかし,江戸語大辞典の「ざら」は,

無差別,すべて,だれかれなし(柳多留「寒念佛ざらの手からも心さし」明和二年,末摘花「ざらにさせるを大通と下女思ひ」享和元年),
無制限,無数,沢山(中洲雀「何レの商人非間なくして雑(ざら)に儲くることを悦」安永六年),

と載り,ありきたりの意味はない。山旭亭主人より前,江戸中期に,

だれかれなし,

の意で,「ざら」が使われている。「ざら錢」とはつながらず,むしろ,

無差別,だれかれなし→無数,沢山,

から,さらに,

ありふれている,

へと意味が転じて後に,「ざら錢」に当てたものではあるまいか。それを,

そんな物はザラニあるなど云ふは,粗末なるものと見做すなり,在りふれたる意,いくらもある意に云ふ,

との解釈は跡付けに思えてならない。江戸語大辞典は,「ざらに」「ざらにゃあ」の項で,

「ざらにはの訛。…ずあらではの意」

とある。

動詞未然形に付き,…しなくてすむものか,…しなくてどうするか,…しなくちゃ,…しなくて,

の意とする。

「ふぐ汁もくはざらにやあとしうといひ」(柳多留,明和七年)
「そりやァおめへ些(ちっ)とは損をせざらあに」(浮世風呂,文化八年)

どうも,この「ざらに」「ざらにゃあ」の,

…しなくてすむものか→しなくてどうする→しなくては,

が,

…して当たり前→当たり前,

と意を変化させたとみていいのではないか,という気がする。無論臆説であるが。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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