2019年06月22日

手塩に掛ける


「手塩に掛ける」とは,

手ずから世話をする,
自ら面倒をみて大事に育てる,

意で,

手塩にかけて育てた子,

などという。「手塩」は,

食膳にのせてある塩,

の意で,室町末期の日葡辞典にも,

テシヲヲヲ(置)ク,

と載る。で,「手塩」は,その,

手塩皿の略,

であるが,

手ずから世話をする,

という意もあるとある(広辞苑)。しかし岩波古語辞典には,

膳におく塩,

その塩を入れた皿,

の意しかない。ひょっとすると,

手塩に掛ける,

の手塩の意が紛れ込んだのかもしれない。

「他人の手汐(テシホ)に育てられ、二親恋しと尋ねるを」(歌舞伎・心謎解色糸)

の用例をみると,すでにこの時代,「手塩に掛ける」の意,

手ずから世話をする

といった含意を,「手塩」で含意させているように見える。

たが,「手塩に掛ける」は,

手(各人)+塩,

で,

「各自で料理に塩加減をするところから生まれた」

とする(日本語源広辞典)のは,たとえば,

「手塩(てしお)」とは、昔の食膳に添えられた少量の塩のことです。もともとは、不浄なものを祓うために添えられたものですが、好みに合わせて料理の塩加減を調節するというためにも用いられました。そこから、人任せにしないで、みずから面倒を見ることを『手塩にかける』と言うようになったといいます」

とする(https://nihongo.koakishiki.com/kotowaza-kanyouku/question-32.html)等々大勢に見える。語源由来辞典も,

「『手塩』の語が見られるようになるのは室町時代から。元は膳の不浄を払うために小皿に盛って添えたものを言ったが,のちに食膳に添えられた少量の塩を表すようになった。塩は味加減を自分で調えるように置かれたものなので,自ら面倒を見ることを『手塩に掛ける』と言うようになった。『手塩に掛ける』と使われた例は江戸時代から見られる」

とするし,日本語源大辞典も,

「手塩は付け塩の約。膳に添えて,食べる人の心にて食物に加える塩を盛ったという皿(大言海),手塩を用いることで,自分の手で直接取って自由に加減するところから(暮らしのことば語源辞典)」

とする。しかし,

自分の料理の塩加減を見ること,
と,
手ずから世話をする,

意とは,自分の食するものと自分以外の対象への世話の意とでは,僕には直接つながらない,少し付会に思える。

日本語の語源は,音韻変化からこう展開してみせる。

「『直接自分の手をくだして物事をすること。自分の手で』という意味の語句,ワガテミヅカラ(わが手自ら)は,ワ・ガ・ミの三音節を落してテヅカラ(手づから)になった。〈うへのきぬを洗ひてテヅカラ張りけり〉(伊勢)。さらに『自身で。みずから』に転義した。〈テヅカラおほせ候ふ,『何か騒がせ給ふ』〉(宇治拾遺)。「手ずから世話をする。自らめんどうを見て育てる」ことをテヅカラノセハ(手づからの世話)といった。これを早口に発音するとき,語中の四音節を落してテセハ(手世話)になった。さらに,セの母交(母韻交替)[ei],ハの母交[ao]の結果,テシホ(手塩)になった。テシホニカケル(手塩に掛ける)は,『手づから世話をする。みずからめんどうを見て育てる』ことである。〈あれほどまでに手塩にかけて育てた子を〉(浄瑠璃・妹背山)」

この転訛なら,意味には連続性があるが,「手づから」は,

「手つ柄(から)の意。ツは連体助詞。カラは経由・手段の意」(岩波古語辞典)
「『手つ(助詞)柄から』の意。多く、身分や地位の高い者についていう」(大辞林)

とするし,大言海は,

「手之自(てつから)の義」

としていて,

わが手自ら,

の音韻変化とするまでもないことを考えると,多少の疑問はあるが。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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