「つつむ」は,
包む,
裹む,
と当てるが,「包む」は,
くるむ,
とも訓ませる。「包」(漢音ホウ,呉音ヒョウ)の字は,
「象形。からだのできかけた胎児(巳)を,子宮膜の中につつんで身ごもるさまを描いたもの。胞(子宮でつつんだ胎児)の原字」
とある(漢字源)。
「会意兼形声文字です(己(巳)+勹)。『人が腕を伸ばしてかかえ込んでいる』象形と『胎児』の象形から、『つつむ』を意味する『包』という漢字が成り立ちました。」
ともある(https://okjiten.jp/kanji672.html)。「巳」(漢音シ,呉音ジ)は,
「象形。原字は,頭とからだができかけた胎児を描いたもの。包(ホウ 胎児をつつむさま)の中と同じ。種子の胎のできはじめる六月。十二進法の六番目に当てられてから,原義は忘れられた」
とある(漢字源)。「裹」(カ)の字は,
「会意兼形声。『衣+音符果(丸い実)』で,まるく,そとから布でつつむ意」
しかし,「裹」は,
くるむ,
とは訓ませない。
和語「つつむ」は,
「ツツはツト(苞)と同根」
とある(岩波古語辞典)。「苞」は,
「ツツミ(包)のツツと同根。包んだものの意」
である(仝上)。「苞」とは,
藁などを束ねて、その中に食品を包んだもの,
で,藁苞(わらづと)がおなじみである。
荒巻き,
などともいう。
(藁苞に包まれた納豆 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%97%81%E8%8B%9Eより)
「〈包む〉という語は〈苞(つと)〉と語源を同じくするが,〈苞〉とはわらなどを束ねてその両端を縛り,中間部で物をくるむもの(藁苞(わらづと))であり,後には贈物や土産品の意味(家苞(いえづと))にも使われるようになった。」
ともある(世界大百科事典 第2版)。
大言海は,
「詰め詰むの略,約(つづ)むに通ず」
とする。「約(つづ)む」は,
「詰め詰むるの略,ちぢむ(縮)と通ず」
といある。「つづむ」は,
縮(ちぢ)める,
意なので当然といえば当然だが。「ちぢむ」は,
しじむ,
の転ある(岩波古語辞典)。「しじむ」は,
蹙む,
とも当て,「顰蹙」の「蹙」である。
ちぢむ,
意で,
しかめる,
意である。他にも,
乱れないようにツヅメル(約)の意(日本語源=賀茂百樹),
ツム(詰む)から(国語溯原=大矢徹),
と,「つづめる」「詰む」に関わらせる説は多い。しかし,「つつむ」を「縮める」とするのは,ちょっとずれている気がする。むしろ,「苞」との関連の方が,「つつむ」の語感にはあうのではないか。
日本語源広辞典は,
「ツツム(包・裹・障)で,隠して見えなくするのが語源です。とりかこむ,おおって入れる,広げた布の中に入れて結ぶなどは,後に派生したか」
とする。語源の説明になっていないが,語感はこんな感じである。
tuto→tutu,
あるいは,
tutu→tuto,
の転訛はあり得るのではないか。大言海は,「苞」の項で,
包(つつ)の転,
とする。そして,「つつ」で連想する,
筒(つつ),
の項で,矛盾するように,
包む意ならむ,
という。とすると,
tutu→tuto,
だけでなく,
tutu→tutumu,
と,「つつ」を活用させたとみることもできる。いずれも,
物をおおって中に入れる,
意(「つつむ」の意味)である。「つつむ」は,「苞(つと)」と同根であり,「筒(つつ)」ともつながるとすれば,「つつむ」は,
「苞」
か
「筒」
の動詞化なのではあるまいか。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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