くるむ


「つつむ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/467683799.html?1562266983)で触れたように,「つつむ」に当てる,

包む,

は,

くるむ,

とも訓ませる。しかし,「つつむ」と「くるむ」は意味が違う。「つつむ」は,

物をおおって中に入れる,

意だが,「くるむ」は,

包みまきこむ,

(広辞苑)で,結果としては,外から覆うことに変わりはないが,そのプロセスが異なる。

巻いて中に包み込む,

ともあり(岩波古語辞典),「苞」と同源とされる「包む」とは,微妙に異なる。「つつむ」は,

大きな布・紙などで全体を覆って中にいれる,

であり,「何々つつみ」という使い方で,上包み,紙包み,茣座(ござ)包み,薦(こも)包み,袱紗(ふくさ)包み,風呂敷包み,藁(わら)包み等々と使う。「くるむ」は,

巻くようにして物をつつむ,

で,例えば,「くくみ」というと,

「赤ん坊を抱くとき,着衣の上からくるんで防寒・保温などのために用いるもの。多くはかいまきに似て,袖(そで)がない。おくるみ,くるみぶとん」

というようにぐるっと巻く感覚がある。だから,

何々ぐるみ(包み),

という使い方で,

家族包み,
身包(ぐる)み,

というとき,

そのものを含んですべて、そのものをひっくるめて全部などの意を表す,

似ているようで,

家族つつみ,
身つつみ,

という言い方をしないのは,「つつむ」は,

全体を覆う,

ところに含意があり,「くるむ」は,

丸ごと包み込む,

という含意のように思われる。大言海に,

「回転(くるくる)のクルの活用,刻々(きざきざ),刻む」

とし,

包括,

の意を載せる。「くるむ」の転じた「くるめる」は,

巻き包む,

意もあるが,

ひとつにまとめる,

意が強まり,「言いくるめる」というように,

丸め込む,

意が派生する。日本語源広辞典も,

「くるくる(擬態語)+む(動詞語尾)」

と「くるくる」語源説を採る。

くるくると包み込む,

意である。擬態語「くるくる」は,

「平安時代から見られる語で,奈良時代には『くるる』といった」

とあり(擬音語・擬態語辞典),「くるる」は,

「乎謀苦留々尓(をもくるるに)」(書紀),

と「くるるに」と使われている(岩波古語辞典)。

「くるむ」が,巻く動作のニュアンスの翳を引きずっているはずである。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

この記事へのコメント