2019年07月13日
うるほふ
うるおう(うるほふ)は,
潤う,
霑う,
等々とあてる。「潤」の字は,「濡れる」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/467863368.html?1562872284)で触れた通り,「潤」(漢音ジュン,呉音ニン)は,
「会意兼形声。閏(ジュン)は,『門+王』の会意文字で,暦からはみ出た『うるう』のとき,王が門内にとじこもって静養するさまを示す。じわじわと暦の計算の外にはみ出てきた日や月のこと。潤は『水+音符閏』で,じわじわとしみ出て,余分にはみ出る水のこと」
とある(漢字源)が,
「会意兼形声文字です(氵(水)+閏)。『流れる水』の象形(『水』の意味)と『左右両開きになる戸の象形と3つの玉を縦ひもで貫き通した象形(「宝石」の意味)』(門内に財貨があふれ『家がうるおう』の意味)から、『(水気を含んで)うるおう』を意味する『潤』という漢字が成り立ちました」
の方(https://okjiten.jp/kanji1491.html)が意味に近い気がする。「潤」と「霑」の使い分けは,
「潤」は,うるほひなり。つやのある義。澤(つや)なり。「河潤九里」は,河川のほとり,九里の間をしめるに非ずして,其の邊の草木皆水気のうるほひを受るなり。「富潤屋,徳潤身」も,皆つやある義,
「霑」は,沾と同字。「沾」は,水のかかりてしっぽりとぬるること。霑と同字なり。史記「汗出沾背」,同書「置酒而大雨,陛盾者皆沾寒」,
とある(字源)。因みに,
「濕」は,乾の反。しめるなり,易經「火就燥,水流濕」,
とある(仝上)。漢字は,同じ「ぬれる」でも,「濕」「澤」「潤」「濡」「霑」と使い分ける。
和語「うるおう(うるほふ)」は,
水気を含む,しめる,みずみずしくなる,
意で,単なる「湿る」とも,「濡れる」は異なるニュアンスである。どちらかというと,「湿る」「濡れる」が状態表現であるのに対して,「うるおう」は,濡れる,湿ることの価値表現であるかに見える。だから,
しめる,水気を含む,
意に,価値表現の,
みずみずしくなる,
意がある。岩波古語辞典は,
「水気を含んでぬれる意から,みずみずしく生気づく意,比喩的に恵みを受けてそれにひたる意や,豊かに栄える意」
とある。「みずみずしさ」をメタファに,
恵みを受ける,
↓
豊かになる,
↓
ゆとりが出る,
といった価値表現の意味の拡大が生まれる。既に室町末期の日葡辞書に,
ザイショガウルヲウタ,
という言い方が載る。大言海は,「うるほふ」は,
ウルフの延,よそふ,そそほふ同例,
とある。「うるふ」は,
乾いているものが水気を与えられて湿る,
意だが,「うるほふ」と微妙に含意が異なる気がする。
うるふ→うるほふ,
と,「ほ(お)」が入っただけで,単なる湿り気から,みずみずしさに意味が微妙に変ずる。
似た言葉に,「うるほふ」の他動詞「うるほす(うるおす)」がある。
水気を含ませる,
潤沢にする,
意だが,大言海は,
にぎはふ,にぎほす,同例,
とするが,
うるふ→うるほす(うるおす)⇔うるほふ(うるおすう),
湿る意の「るうふ」の意味拡大の要因に思えてくる。
「うるほふ」の語源は,
ウル(得)の義に通じる(和訓栞),
フリオフ(降生)の転,雨が降ると草木が生いでる意から(和語私臆鈔),
ウツオホ(恩沢)の義(言元梯),
ヌルホホム(滑含)の約轉(名言通),
ウルは「閏」「潤」の韓音ユンの転(日本古語大辞典=松岡静雄),
等々。
韓音説は,日本語源広辞典も採り,
ウル(潤の韓音ユンの日本発音)にオフ・オウが付いた語,
とする。是非の判断はつかないが,この語だけが朝鮮語由来というのは,少し変だ。「しめる」「ぬれる」といった関連語との関係抜きでは即断できない。
「濡れる」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/467863368.html?1562872284)が,
塗る,
という関わるのなら,「うるほふ」だけが,朝鮮語由来とはちょっと納得できない。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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