2019年07月16日

ひたす


「ひたす」は,

浸す,
漬す,
沾す,

と当てる(「沾す」と当てたのは岩波古語辞典)。「沾」(テン,チョウ)は,

「会意兼形声。『水+音符占(しめる)』で,ひと所に定着する意味を含む」

とあり(漢字源),「しみがつく」とか「うるおう」,「ひたひたとぬれる」意であるが,「濡れる」http://ppnetwork.seesaa.net/article/467863368.html?1562872284で触れたように,

「沾」は,水のかかりてしっぽりとぬるること。霑と同字なり。史記「汗出沾背」,同書「置酒而大雨,陛盾者皆沾寒」。「霑」も,沾と同字,

という使い方をする。

「濕」は,乾の反。しめるなり,易經「火就燥,水流濕」,
「潤」は,うるほひなり。つやのある義。澤(つや)なり。「河潤九里」は,河川のほとり,九里の間をしめるに非ずして,其の邊の草木皆水気のうるほひを受るなり。「富潤屋,徳潤身」も,皆つやある義,
「濡」は,沾と略々同じ。唐書張旭傳「旭大酔,以頭濡墨而書」,

と使い分けをする。どちらかというと,「ひたす」は,

水の中につける,
びっしょり濡らす,

意で,若干ニュアンスが違う気がする。「浸」(シン)は,「ひたす」「つける」意で,

「会意兼形声。右側の字(シン)は『又(手)+ほうき』の会意文字で,手でほうきをもち,しだいにすみずみまでそうじを進めていくさまを示す。浸はそれを音符とし,水を加えた字で,水がしだいにすみずみまでしみこむこと」

とあり(仝上),「しみる」「ひたす」意である。別に,

「会意兼形声文字です(氵(水)+侵の省略形)。『流れる水』の象形と『ほうきの象形と手の象形』(人がほうきを手にして次第にはきすすむ意味から、『おかす』の意味)から、『水が次第におかす』を意味する『浸』という漢字が成り立ちました。」

ともある(https://okjiten.jp/kanji1082.html)。「漬」(漢音シ,呉音ジ)は,

「会意兼形声。朿(シ・セキ)は,ぎざぎざにとがったはりいばらのとげを描いた象形文字。責は『貝(財貨)+音符朿(シ・セキ)』の会意兼形声もじで,財貨を積み,刺で射すように言う手を攻めること。債(サイ 積んだ借財でせめる)の原紙。漬は『水+音符責』で,野菜を積み重ねて染液につけたりすること」

とある(仝上)。別に,

「形声文字です(氵(水)+責)。『流れる水』の象形と『とげの象形と子安貝(貨幣)の象形』(『金品を責め求める』の意味だが、ここでは、『積(セキ)』に通じ(同じ読みを持つ『積』と同じ意味を持つようになって)、『積み重ねる』の意味)から、水の中に積む、すなわち、『ひたす』を意味する『漬』という漢字が成り立ちました。」

ともある(https://okjiten.jp/kanji1991.html)。

「漬は浸なり,染なり,水につかる義」

とある(字源)ので,「染」「漬」「浸」はほぼ同義で使われているらしい。

和語「ひたす」も,「湿る」http://ppnetwork.seesaa.net/article/467936369.html?1563129264で触れたように,

シム(浸む)と同根,

とあり(岩波古語辞典),大言海は,「しめる」の文語「しむ」は,

染む,
浸む,

とも当てるhttp://ppnetwork.seesaa.net/article/463683479.html。他動詞「ひたす」の文語は,

ひづ,

だが,古くは,

ひつ,

で,

漬つ
沾つ,

と当てる。

「平安時代までヒツと清音。奈良時代から平安時代初期には四段活用。平安時代中頃から上二段活用」

とある(岩波古語辞典)。つまり,四段活用,

浸(ひ)つ た(未然形)・ち(連用形)・つ(終止形)・つ(連体形)・て(已然形)・て(命令形)

が,上二段活用

浸(ひ)つ ち(未然形)・ち(連用形)・-つ(終止形)・つる(連体形)・-つれ(已然形)・ちよ(命令形)

となり,

浸つ→浸つ→浸ず,

と転じたことになる。

日本語源広辞典は,「ひたる」の語源を,

「ヒタヒタ(擬態語)+ス(動詞化)」

とする。面白いが,「ひたひた」は,

「鎌倉時代から見られる語」

とあり(擬音語・擬態語辞典),時代が合わない。この濁音の「びたびた」は,

「雫が垂れるくらい,物が水に濡れている様子」

の意(仝上)だが,室町時代から見られる語で該当しない。「びたびた」は,

「現代の『びちゃびちゃ』に近い様子を表したと考えられる。日葡辞書の『びためかす』の項目に『びたびたとする』は同義」

とある(仝上)。

意味からは,「染む」「湿む」「漬つ」「浸つ」「沾つ」はほぼ重なる。とすると,「湿る」で触れた,「し」を,

水,

とあて,

「水(すゐ)の音の約」

とし,

水良玉(しらたま),水長鳥(しながどり),しがらみ,しずく,したたる,しむの類例,

と挙げる(大言海)のと重なるのかもしれない。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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