2019年07月18日

こうずる


「こうずる」は,

高ずる,
嵩ずる,
昂ずる,
極ずる,
講ずる,
困ずる,
薨ずる,

等々,漢字を当て替えて,違う意味に使う。漢字が無ければ,というか,文字を持たなかったので,

こうず(る),

しかなく,まさに目の前で,会話している当人にとっては,その文脈を共有しているかぎり,その意味は伝わったのである。

「薨ずる」は,中国語「薨」(コウ)から来ている。

みまかる,

意である。

「会意兼形声。『死+音符夢(ボウ)の略体』。夢は,物がよく見えなくなる意。その意味を借りて死ぬ事を暗示した忌ことば」

である(漢字源)。和語では,

「皇太子・心脳・女御・大臣・三位以上の人の死をいう」

とある(岩波古語辞典)。日本語源広辞典は,

「中国語の『薨』は『夢(意識がうすれる)+死(死ぬ)』が語源です。…日本語では直接『薨+する』とサ変動詞にして皇族が死ぬ意」

とし,大言海は,

「薨御は(崩御に混じて)薨去と音通の当て字ならむ」

とする。薨去の「薨」から当てたものとみられる。

「講ずる」も,中国語「講」(コウ)に依る。「講」は,

「会意兼形声。冓(コウ)は,上と下(向こうとこちら)を同じように構築した組み木を描いた象形文字で,双方が同じ構えとなる意を含む。構(くみ木)の原字。講は『言+音符冓』で,双方が納得して同じ理解に達するように話すこと」

とある(漢字源)。「講ずる」は,講義する,意であり,考えをめぐらせて行う意である。日本語源広辞典は,「講ずる」についても,

「中国語の『講』は『言(言葉)+冓(高く積み重ねる)』意です。直接スルをつけて,使う日本語の場合,『講ずる』となり,講義する,考える,工夫する意です」

とする。

問題は,「高ずる」「昂ずる」「嵩ずる」とあてる「こうずる」である。

たかまる,
甚だしくなる,

意だが,中国語「高」(コウ)「昂」(コウ)に依っている,とも見える。ただ「嵩」(スウ)は,たかい,そびえる,意だが,

「会意。『山+高』で,たかくそびる山を表す。崇とまったく同じことばをあらわす異体の字」

とあり,「高」「昂」に倣って当てたとみられる。「高」は,髙い意だが,

「象形。台地にたてたたかい建物を描いたもの。また槁(コウ 枯れ木)に通じて,乾いた意をも含む」

とあり(漢字源),「昂」は,あげる,あがる,意で,

「会意兼形声。卬は『立った人+ひざまずいてふりあおぐ人』の会意文字で,仰(ゴウ)の原字。昂はそれを音符とし,日を加えた字で,太陽をふりあおぐため,頭をあげて上向くことをあらわす」

とある(仝上)。日本語源広辞典は,中国語「高」に依るとして,

「中国語『高』は『高い台』が語源で,後に高いを意味するようになります。日本語では『高+ずる』というサ変動詞として使います」

とする。しかし,

困ずると同源,

とする(日本語源大辞典)説があり,岩波古語辞典は,

極ずる,

と当て,

ゴウジの転,

とし,

極に達する意,

とする。とすると「極」(漢音キョク,呉音ゴク)の呉音ゴク(極意,極道等々)が,

ゴクズ→ゴウズ→コウズ,

と転訛したのかもしれない。「極」は,きわまる,きわめる,意だが,

「会意兼形声。亟(キョク)の原字は,二線の間に人を描き,人の頭上から足先までを張り伸ばしたことを示す会意文字。極は『木+音符亟』で,端から端まではったしん柱」

とある(漢字源)。その意味で,

極する→ゴウズル,

も,漢字由来かもしれない。「ごうずる」は,

極度に疲れる,
ひどく弱る,

意で,ほぼ,

困ずる,

に重なる。つまり,

極(ごう)ずる,

困(こう)ずる,

は,漢字を取ってしまえば,重なるのである。大言海は,

「困(こぬ)ずの音便,論(ろぬ)ず,ろうず。艸冠(サウクワヌ),さうくゎう」

とする。

コンズ・コスズ→コウズ,

そうなら,これも中国語「困」(コン)に依ることになる。「困」は,こまる意だが,

「会意。『□(かこむ)+木』で,木を囲いの中に押し込んで動かないように縛ったさまを示す。縛られて動きがとれないでこまること」

とある(漢字源)。

「サ変動詞『困(こん)ず』が音便化したものとするのが通説だが,『極』と表記した例が多くみられ,複合動詞を形成することもあるところから,『極』の呉音ゴクがサ変動詞化し,音便化したものとする説が有力となってきている」

とする(日本語源大辞典)からみて,どうやら,「こうずる」は,

高ずる,
嵩ずる,
昂ずる,
極ずる,
講ずる,
困ずる,
薨ずる,

は,総べて,中国語由来ということになる。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
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コトバの辞典;
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スキル事典;
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書評
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posted by Toshi at 03:32| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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