「みね」は,
タニは峰(ヲ)の対,
とある(岩波古語辞典)。「を」は,
峰,
岡,
と当て,
みねつづき,尾根,
山の小高い所,
の意である。大言海は,「を」を,
峯,
丘,
と当て,
山の高き處,みね,
とし,「尾」とあてる「を」の,
山の裾の引き延へたる處,
山尾,
とつなげる。古事記に,
「山の尾より,山の上へ登るひとありき」
とあるところを見ると,
山尾,
の意で,
山峰,
とも当てる。
山の峰続き,
山の稜線,
の意となる。山の峰の意とほぼ重なるが,
峰々の連なり,
に焦点を当てており,
尾根,
と重なるし,
稜線,
脊梁 (せきりょう) ,
とも重なる。「尾根」は,
「谷と谷に挟まれた山地の一番高い部分の連なりのことである。山稜(さんりょう)、稜線(りょうせん)とも言う」
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%BE%E6%A0%B9)が,山登りの人から見ると,
「尾根」は登るものだが「稜線」は歩くもの,
という感覚らしい(https://www.yamareco.com/modules/diary/21844-detail-92607)。視点の違いだろう。
(「尾根」と「峰」(飛騨山脈の燕岳付近) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%BE%E6%A0%B9より)
となると,「を(峰)」は,
尾,
と重なり,
尾根,
稜線,
脊梁 (せきりょう) ,
であり,「みね(峰)」は,
山の頂の尖ったところ,
の意であり,「を(峰)」とは由来を異にする言葉らしい。谷に対なのは,
峰々の連なり,
であって,
みね(峰),
ではない,ということになる。大言海は,
「ミは發語。ネは嶺なり」
とするが,岩波古語辞典は,
「ミは神のものにつける接頭語。ネは大地にくいいるもの,山の意。原義は神聖な山」
とし,日本語源広辞典も,
ミ(御)+ネ(嶺),
とする。
ミは褒称。ネは高峻の義(箋注和名抄・東歌疏=折口信夫),
ミは尊称,ネは止まり動かない意(東雅),
も同趣旨である。かつてヤマはご神体であった。とりわけ尖った頂は神聖視された。「ミ」はその名残りかも知れない。
ミネ(御根)の義。山上に神のあるところから(名言通),
ミは神の略,ネはナル(成)の転(和語私臆鈔),
ミはマシの約で美称,ネ(根)は山の義(和訓集説),
はその趣旨である。やはり,
ご神体,
の意味であると見ていい。
「ね(嶺)」は,
「ネ(根)と同根。大地にしっかり食い込んで位置を占めているものの意。奈良時代には東国方言になっていたらしく,独立した例は東歌だけに見える。大和地方ではミネという。類義語ヲは稜線の意」
とある(岩波古語辞典)。ちなみに「ね(根)」は,
「ナ(大地)の転。大地にしっかりと食いこんでいるものの意」
とある(仝上)。大言海は,
「の上(うへ)の約ならむ。常に根と書す」
とあるので,
ナ(大地)→ネ(根)→ネ(嶺),
といった転訛なのであろうか。
因みに,「みね」には,
峰(峯),
嶺,
岑,
等々当てる。「峰(峯)」(漢音ホウ,呉音フ,ブ)は,
△にとがった山,
の意で,
「会意兼形声。夆は,△型に先の尖った穂の形を描いた象形文字に夂(足)印を加えて,左右両側から来て△型に中央でであうことを示す。逢(ホウ 出あう)の原字。峰はそれを音符とし,山を加えた字で,左右の辺が△型に頂上で出会う姿をした山。封(ホウ △型の盛り土)ときわめて縁が近い」
とある(漢字源)。刀の背を峰というのは我が国だけの使い方である。
「嶺」(漢音レイ,呉音リョウ)は,
「会意兼形声。領(レイ)は,人体の上亡,頭と胴をつなぐ首のこと。嶺は『山+音符領』で,人体の首に当たる高い峠」
とあり,
髙い峰のつづき,
を言い,稜線の意に近い。「岑」(漢音シン,呉音ジン)は,
山のじくざぐ切り立った高い所,
だが,
山の小にして髙きもの,
ともある(字源)。
「会意。今はふさがって暗いことを示す。岑は『山+今(ふさがる)』」
とある(漢字源)。
なお,「やま」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/418594092.html?1562715970)については,触れた。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95