大人


「大人」は,

おとな,

と訓むが,「しゅうと」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/468403976.html?1564512521)で触れたように,

うし,

とも訓ます。これは江戸期の国学者の再生させた言葉である。ほかに,

だいじん,
だいにん,

等々とも訓ます。多少意味の幅は異なるが,いずれも,

成人,

の意を持つ。「おとな」は,同じく,

大人,

と当てているが,

うし,

とは少し由来が異なるようである。「おとな」は,

乙名,

とも当てる。岩波古語辞典は,

「成人式をすませた人の意。オトはオトトケシのオトと同根か。ナはオキナ(翁)・オミナ(嫗)などのナに同じか」

とある。「おととけし」とは,

巨大である,

という意で,「だいじん」と同意になる。「だいじん」「だいにん」は,

小人の対,

で,

からだの大きい人,

の意から,

一人前の人間,

「おとな」の意となり,メタファとして,

大人物,

の意から,

徳の高いりっぱな人,
度量のある人,
地位や身分の高い人,
父・師,

と,「うし」の意に重なる。

「おとな」は,成人,

男子なら,元服式をすませた者,
女子ならば裳着(もぎ)をすませた者,

つまり,

社会的に一人前の義務と資格とを与えられた者,

をさす(仝上)。「だいじん」と同じように,

精神的・肉体的に成熟した人,
(女房などの)頭に立つ人,
長老,

の意となる。「長老」「宿老」の意では,

乙名,

と当てることが多い。信長公記では「おとな」は,家老を指し,信長に付けられた,林秀貞,平手政秀は「おとな」とされる。徳川幕府の「老中」も,宿老であり,「おとな」に当たる。

この「おとな」を,大言海は,

「大人成(おほひとなり)の約略。旅人(たびひと),たびと。大成(おほきなり),おきな(翁)。大女成(おほめなり),おみな(嫗)。小女成(をめなり),をみな(女)。項後(うなじり),うなじ。禮代(ゐやじり),ゐやじ」

とする。

オホヒトナ(大人名)の義か(和訓栞),

も同種だが,日本語源広辞典は,

「オオ(大)ト(人)ナ(成・名)」

とする。

「『観智院本名義抄』に『長』に『オトナツク』という訓があり,人として長じたようすを指すものと思われる。『書言字考節用集』では漢籍にある『家長・傳御・監奴・老長』などの用字に『おとな』と訓みをつけるなど,(一族,集団のおもだった者,かしら等々の意の)勢力は長く続いたが,近代以降では,(成人式を終えた男女)の意として専ら用いられた」

とある(日本語源大辞典)ので,「おとな」の意は,語源はともかく,

「おとなになり給ひて後は,ありしやうに御簾の内にも入れ給はず」(源氏)

のように,「成人」の意であったものが,

乙名,

と当てる,

長老,
宿老,
かしら,

といった意味で使われるようになり,それが先祖返りして,成人の意に戻ったようである。とすると,

うし,

しうと,

の意味の変化とは少し異なるのかもしれない。「おとな」は,

「乙名・長・長男・長者・長生・老・老人・老男・宿老・家老」

などとも書くとして,

「一般に集団の中の指導者をさすが,特に中世後期以降の村落の代表的構成者をさす用語として頻出。近畿地方の宮座において,若衆(わかしゅう)が一定の年齢に達し,規定を全うした時,老人衆に加入できた。村落自治の発達した惣村(そうそん)における〈おとな〉衆は惣村の代表として村政を指導した。〈おとな〉衆は名主層,土豪層だったとみられる。江戸時代には平百姓に対する上層民をさし,村方三役(むらかたさんやく)などに就いている」

とある(百科事典マイペディア)のは,「おとな」の意味が「長老」の意としてもっぱら使われていた時期の,意味の範囲と見ることが出来る。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

この記事へのコメント