おとなしい


「おとなしい」は,

大人しい,

と当てる。「大人」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/468452762.html?1564598292)で触れたように,「大人」は,

成人の意である。今日は,日本語語感の辞典が,

性質や態度が穏和で従順な意,

として使うとするように,

落ち着いて穏やかである,
とか,
素直で落ち着いている,

といった,

穏やかさ,

の意味で使うことが多い。「大人し」は,

大人らしい,

大人っぽい,ませている,

年かさで物の心得がある,

という意味の流れ(岩波古語辞典)は,「大人」の意味の外延として不思議はない。まあ,

大人らしい,

品行方正である,

まで(江戸語大辞典)も,意味の外延になくはない。しかし,

温順である,
素直である,

の意は,どこからきたのだろう。

年配である,

一族の長らしい、また、年長者らしい思慮、分別がある,

従順,温和である,

の意味の転換も,ちょっと分からない。荒々しくない,逆らわないのが,我が国流の「大人」という拡大解釈をするなら,別だが。

「おとなしいは,『 成人』を意味する『大人』を形容詞化した語。元々,おとなしいはその言葉通り『成熟しているさま』を表したが,『思慮分別が備わっていて年長者らしい』といった意味が含まれるようになったことで,『大人びている』『大人っぽい』など実際の年齢を問わない表現となった。『大人のような』といった意味から,『穏やか』『落ち着いている』『静か』という意味が含まれるようになり,『素直なさま』『従順なさま』も表すようになった。更に,『おとなしいデザイン』というように,人間以外のものに対しても落ち着いた性質を『おとなしい』と表現するようになった」

とする語源由来辞典の説明も,

穏やか,落ち着いている,静か,

素直なさま,従順なさま,

には,価値の転換がある。「穏やかである」「落ち着いている」は,ある意味,状態表現である。それを,

素直なさま,従順なさま,

という価値表現に飛躍させるのは,どこかいかがわしい。日本語源広辞典は,

「語源は,『大人+シ』です。静かで,落ち着いて,従順な人を,オトナシイ人と言います。子供の性質状態によく使うのですが,現在では,年配の人にも,『お爺さんは,仕事疲れとお酒で,おとなしく休んでいやはるわ』などと使います。ところが,驚いたことに,オトナシの語源は,大人+シなのです。したがって,成人や老人には使わなかった言葉です。本来,聞き分けのない乱暴な子供が,大人にようにものわかりよく,温順な場合に,使ったと言われます」

とする。「大人しい」が,このように,

子供に使う,

言葉であるならば,

穏やか,落ち着いている,静か,

素直なさま,従順なさま,

の価値転換は納得できる。大言海も,「おとなし」を,

老成,

と当て,

「大人(オトナ)を活用す。男男(ヲヲ)し,女女し,稚子(ヤヤコ)しなど同趣なり」

として,

成人(おとな)びたり,
ませたり,

の意を載せる。

宿老(おとな)らしい,

の意も,その意味に倣うなら,

宿老(長老)にふさわしくなった,

という含意になる。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
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