2019年08月07日

ブタ


「ブタ」は,

豚,
豕,

と当てる。「豚」(漢音トン,呉音ドン)は,

会意。肉+豕,

で,「豕」(シ)は,

象形。いのしし,またはぶたの姿を描いたもの。からだが直線状をなして曲がらず,短い形をしている意を含む,

で,いのしし,または豚の意。「いのしし」は,

猪,
豬,
豕,

と当てる。「猪」(チョ)は,

会意兼形声。「豕+音符者(充実する,太る)け。肥ったいのしし,その家畜となったのがぶた,

で,猪の意であり,転じてふとったぶたの意でもある。いのししとぶたは,あまり区別されていない(漢字源)。なお,

「現代中国語では、『ブタ』は『豬(=繁体字)/猪(=簡体字)』と表記され、チュー(zhū)と呼ぶ。古語では『豕』(シー shǐ)が使われた。西遊記に登場する猪八戒はブタに天蓬元帥の魂が宿った神仙で、『猪(豬)』は『朱』(zhū、中国ではよくある姓)と音が通じるために姓は『朱』にされていた。しかし明代に皇帝の姓が『朱』であったため、これを憚ってもとの意の通り『猪(豬)』を用い、猪八戒となった。」

とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%82%BF)。

日本では,弥生時代,遺蹟にいのししだけでなく,ぶたの発見があったとされてきたが,

「255塩基対を含む574塩基対による系統解析を行い、10資料のうち6資料が現生イノシシと同じグループに、4資料は東アジア系家畜ブタと同じグループに含まれ、大陸から持ち込まれた家畜豚は九州・四国の西日本西部地域に限られている点を指摘した」

とあり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%82%BF),いのししの家畜化したぶたは国内で発見されることなく,中国から,ぶたを持ち込んだものとされている。古墳時代になると,

「遺跡からもブタの骨は出土している。『日本書紀』『万葉集』『古事記』にみられる『猪飼』『猪甘』『猪養』などの言葉の『猪』はブタの意味であり、ブタが飼われていた」

とされる(仝上)。漢字での「豕」「豚」を,和語「ぶた」に当てはめたのは,どうやら,弥生時代もかなり新しくなって以降と思われる。

「『播磨国風土記』賀毛郡山田里に仁徳天皇の御代に豬を放飼した地とある。安康天皇の御代に山城国に豬飼(豚飼)がいた」

とある(日本語の語源)。既に「ブタ」が飼育されていた。

さて,この「ブタ」の語源について,めずらしく大言海の説明が長い。

「南洋語腿(もも)の義。馬来(マレイ)語ベチス,スンダ(sunda),ビチス。暹羅(しゃむ)語バチ。支那人,此語を本邦に入れたりとおぼゆ。さるは,豚の腿を燻製したるものを,臘乾(らかん 広東語なるべし)と云ひ,其品,渡来してブタと呼び,後に其獣の渡りて,なの移れりと考ふ。さる理(ことはり)のあるべきは,キサ(象)は,初,象牙の渡りて,牙を橒(キサ)あるより名とし,遂に獣名に移れり。ウメ(梅)も,初,梅干にて渡り,烏梅(ウメ)と呼びしが,生なる種の渡来して,植ゑて成長し,遂に樹名となれり。これらと同趣なるべし。沖縄にて豚をウワァと云ひ,朝鮮にてトヤジと云ふ。或は云ふ,万葉集十二『驄馬(アシゲウマ)の,面高夫馱(オモタカブタ)に乗りて來べしや』,同十八『馬に布都麻(フツマ)に,負せもて』とあるは,太馬(フトウマ)の約なれば,上の面高夫馱も面高太なるべし(面高は面を髙くさしあぐるなり)。因りて,ブタ(豚)も太く肥えたれば,豬太(ヰブト)の上略轉の語なるべし」

と。しかし弥生時代に既に「豚」が存在する以上,燻製→現物という苦心の説も意味がない。後半の,「豬太」と同じ趣旨なのが,

「豬+太,ヰブタからヰが脱落」

であり(日本語源広辞典),

「フトキ(太き)毛物は,フトがブタ(豚)になった」(日本語の語源)

と,

「この獣が太って肉がブタブタしていたところから」(たべもの語源辞典)

は,ほぼ同趣旨である。

「ぶたぶた」を擬態とする説(和訓栞)もほぼ同じである。

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その他に,鳴き声説もある。

「『フト(太)』と鳴き声の『ブー』が合わさり,ブタになった」

とする説(語源由来辞典),

外国語由来とする説は,大言海以外にも,

豚の意の朝鮮語チプトヤナの略轉(言葉の研究と古代の文化=金沢庄三郎),
猪の意の蒙古語ボトンと関係があるか(日本の言葉=新村出所引),

もある。

個人的には,太っているとする擬態語説に与したい。初見の驚きがあるように思うが,どうであろうか。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル: ブタ
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posted by Toshi at 03:55| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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