2019年08月12日

ないがしろ


「ないがしろ」は,

蔑ろ,

と当てる。「蔑」(漢音ベツ,呉音メチ)は,

「会意。大きな目の上に,逆さまつ毛がはえたさまに戈(カ 刃物)をそえて,傷つけてただれた目を表した。よく見えないことから,転じて,目にも留めないとの意に用いる」

とある。

ただれた目→よく見えない目→相手を目にも留めない,無視する→相手をけなす,

といった意味の転化のようである。

「ないがしろ」は,

他人や事物が,あっても無いかのように侮り軽んずるさま,

の意で,そこから転じて,

人目を気にしないこと→うちとけたさま→無造作なさま→しどけないさま,

等々と意味が変わっている。「ないがしろ」は,

だから,

あってもないかのごとく,

の意である。

「無キガシロ(代)の音便。無いも同然の意」

とある(広辞苑・大辞林・岩波古語辞典)。天治字鏡には,

「蔑,無加代也」

とある。日本語源広辞典の解釈だと,

「『無き+しろ(代,材料,対象)』です。他人の目を気にしない,気ままの意です。転じて,現代語では,あってもなかったように軽く扱う意です」

となるが,これでは,「蔑」の字を当てた古人の意図が消えてしまう。また,日本語の語源は,

「ナキガムシロヨシ(無きが寧ろ良し)は『ム』『ヨシ』を落としてナイガシロ(蔑ろ)になった」

とするが,これだと,「ないがしろ」の意味が少し変わり,ガンムシの意味が薄らぐ。「蔑」の字を当てた意味が飛んでしまうのではないか。あくまで,

あってもなきがごとく,

であるからこそ,「蔑」の字を当てる意味がある。

「ナキガシロ(無代)」の他,多くは,

ナキカステラ(無為)の義(言元梯),
ナキ(無)カ-シリ(領)オの義(国語本義),
無が如しの義(柴門和語類集),

としている。

「ないがしろは、『無きが代(なきがしろ)』がイ音便化された語。『代(しろ)』は『身代金』などにも使われるように、『代わりとなるもの』を意味する。『代』が無いということは、『代用の必要すら無いに等しい』という意味である。 つまり、人を無いようなものとして扱うことの意味から、軽視したり無視することを『ないがしろ』というようになった」

という説明(語源由来辞典・由来・語源辞典)が正確である。

現代の使い方は,

蔑ろにする,

が多いが,

「無いのと同じように扱う、という意味。寝ている親を思い切り蹴飛ばしておきながら、『なんだ、そこにいたのか。気がつかなかった』というようなことを平気で口走る態度を『親をないがしろにする』と言う」

と(笑える国語辞典)と,ほぼ当初の意味を保持しとている。むしろ,

あってもないかのごとく,

の意が転じた,

人目を気にしないこと→うちとけたさま→無造作なさま→しどけないさま,

という使い方は,

「小桂(コウチギ)だつもの,ないがしろに着なして」(源氏)
「装束,しどけなげにて,参り給へり,鬢のわたりも,打ちとけて,ないがしろなる御うちとけすがたの」(狭衣),

は平安期のみのように見える。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:蔑ろ ないがしろ
【関連する記事】
posted by Toshi at 03:48| Comment(1) | 言葉 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
お腹がくちくなったら、眠り薬にどうぞ。
歴史探偵の気分になれるウェブ小説を知ってますか。 グーグルやスマホで「北円堂の秘密」とネット検索するとヒットし、小一時間で読めます。北円堂は古都奈良・興福寺の八角円堂です。 その1からラストまで無料です。夢殿と同じ八角形の北円堂を知らない人が多いですね。順に読めば歴史の扉が開き感動に包まれます。重複、 既読ならご免なさい。お仕事のリフレッシュや脳トレにも最適です。物語が観光地に絡むと興味が倍増します。平城京遷都を主導した聖武天皇の外祖父が登場します。古代の政治家の小説です。気が向いたらお読み下さいませ。(奈良のはじまりの歴史は面白いです。日本史の要ですね。)

読み通すには一頑張りが必要かも。
読めば日本史の盲点に気付くでしょう。
ネット小説も面白いです。
Posted by omachi at 2019年08月13日 01:48
コメントを書く
コチラをクリックしてください