2019年08月16日

そで


「そで」は,

袖,

と当てる。「袖」(漢音シュウ,呉音ジュ)は,

「会意兼形声。『衣+音符由(=抽,抜き出す)』。そこから腕が抜けて出入りする衣の部分。つまり,そでのこと」

とあり(漢字源),字源には,

「手の由りて出入りする所,故に由に从(したが)ふ」

とある。「そで」には,「袂」もあるが,我が国は,

たもと,

に当てる。「袂」(漢音ベイ,呉音マイ)の字は,

「会意。『衣+夬(切り込みを入れる,一部を切り取る)』。胴の両脇を切り取ってつけた,たもと」

とある(漢字源)。

「そで」は,

「衣手(そで)の意。奈良時代にはソテとも」

とあり(広辞苑),岩波古語辞典も,

「ソ(衣)テ(手)の意。奈良時代は,ソテ・ソデの両形がある」

とし,大言海は,

「衣手(そで)の義と云ふ。或は,衣出(そいで)の約か」

とする。「そ」自体が,

衣,

と当て,

ころも,

の意だが,

ソデ(袖),
スソ(裾),

等々,熟語にのみ用いられる。問題は,この「そ」が,上代特殊仮名遣いでは,

乙類音(sö)

で,「そで(袖)」の「そ」が,

甲類韻(so),

とされていることだ。ただ,もし「えり」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/468861598.html?1565857857)で触れたように,「えり」ということばが,後になって使われたのだとすると,「そで」も後に,つまり,

『古事記』・『日本書紀』・『万葉集』など、上代(奈良時代頃)の万葉仮名文献に用いられた,

後の,古典期以降,その特殊仮名遣いが使われなくなって以降の「ことば」とすると,つじつまはあう。とすると,

そで(衣手)の義(東雅・安斎随筆・燕石雑志・箋注和名抄・筆の御霊・言元梯・名言通・和訓栞・弁正衣服),
衣の左右に出た部分をいうところから,ソデ(衣出)の義(日本釈名・関秘録・守貞漫稿・柴門和語類集・上代衣服考=豊田長敦),

の諸説も,まんざら捨てられない。音韻とは関係ない,

そとで(外出)の義(名語記),

もあるが,ちょっと付会気味である。

「そ(衣)」は,

「ソデ(袖),スソ(裾)のソ。ソ(麻)と同根か」

とある(岩波古語辞典)。「ソ(麻)」は,

アサの古名。複合語として残る,

とある(仝上)。

あおそ(靑麻),
うっそ(打麻),
なつそ(夏麻),

等々に使われている。大言海は,

オソフ(襲)の語根オソの約か,又身に添ひて着るなれば,云ふかと云ふ,

とするが,ちょっと無理筋に思える。他に,

身の外に着るからソ(外)の義(柴門和語類集),

等々あるが,理屈ばっているときは大概付会である。ここは,日本語源広辞典の,

麻の古名ソ

でいいのではないか。「そ(麻)」も,「そ(衣)」も,

so,

なのである。

なお,「袖にする」という言い回しは,

手を袖にす,

の略で,

自分から手を下そうとしない,手出ししない意,

である(岩波古語辞典)それが転じて,

手に袖を入れたまま何もしない,

おろそかにする,

すげなくする,

といを転じたと思われる。日本語源広辞典は,

「ソデは,身に対して付属物です。中心におかないことです。おろそかにする,蔑ろにする意です」

とし,笑える国語辞典は,

①着物の袖に手を突っ込んだまま相手の話を聞くという冷淡な態度からきた,
②「舞台の袖」などというように「袖」には端の部分、付属的な部分という意味があるから,
③袖を振って相手を追い払う仕草から,

と三説挙げるが,原義が,

手を袖にす,

なら,いずれも,後世意味の変化後の解釈に思われる。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:そで
posted by Toshi at 03:55| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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