杜撰
「杜撰」は,
ずさん,
と訓ますが,本来,
ずざん,
と訓むものが訛った。「杜」(漢音ト,呉音ズ)は,
「会意兼形声。『木+音符土(ぎっしりつまる)』」
とあり(漢字源),果樹の「やまなし」の意であり,「とざす」(是静非杜門)の意で,「塞」と同意である(字源)。「(神社の)もり」の意で使うのは我が国だけである。
「撰」(慣音セン,漢音サン,呉音ゼン)は,
「会意兼形声。巽(セン・ソン)とは,人をそろえて台上に集めたさま。撰は『手+印符巽』で,多くのものを集めてそろえること」
とある(漢字源)。「えらぶ」意だが,「詩文をつくる」意がある。「えらぶ」意では,
撰んで集めそろえること(もの),
事柄をそろえ,集め,それをもとに文章をつくる(撰述),
生地を集めて述べる,編集する,
といった意味になる(漢字源)。「撰」は,
「造也と註す。文章を作るには,撰,譔何にてもよし。撰述と連用す。唐書,百官志『史館修撰,掌修國史』」
とあり(字源),「選」は,
「よりすぐること,文選・詩選は,詩文のよきものをよりぬく意なり。撰述には用ひず。論語『選於衆擧皐陶不仁者遠(衆に選んで皐陶(舜帝が取り立てて裁判官とした)を挙げしかば,不仁者遠ざかりぬ)』」
とあり(字源),「撰」と「選」の違いが,「杜撰」の語源を考えるに当たって鍵となる。
「杜撰」は,今日,
物事の仕方がぞんざいで,手落が多い,
意で使われる。元は,一説に,
杜黙(ともく)の作った詩が多く律に合わなかったという故事から,
とある(広辞苑)。日本語源広辞典も,
杜黙の試が多く律に合わなかった故事,
とする。大言海は,
「宋音ならむ。禅林寶訓音義,下『杜撰,上,塞也,下造也,述也,言不通古法而自造也』。無冤録『杜撰,杜借也。撰,集也』」
とし,
詩文,著述などに,妄りに典故,出處も無き事を述ぶること,
とし,類書纂要の,
「杜撰作文,無所根拠」
野客叢書(宋,王楙)の,
「杜黙為詩,多不合律,故言事不合格者,為杜撰」
事文類聚の,
「或云,唐皇甫某,撰八陽經,其中多載無本據事,如鬱字,分之為林四郎,故事無本據,謂之杜撰」
等々を引く。こうみると,「杜撰」は,
「杜という人の編集したものの」
意(故事ことわざ辞典)ではなく,「撰述」の意,つまり,
「詩作」
の意であり,
「『杜』は宋の杜黙(ともく)のこと、『撰』は詩文を作ること。杜黙の詩が定形詩の規則にほとんど合っていなかったという「『野客叢書』の故事から」(デジタル大辞泉)
「杜撰の『杜』は、中国宋の杜黙(ともく)という詩人を表し、『撰』は詩文を作ることで、杜黙 の作った詩は律(詩の様式)に合わないものが多かったという故事に由来するという、中国の『野客叢書(やかくそうしょ)』の説が有力とされる」(語源由来辞典)
というところに落着しそうだが,
杜撰の「杜」は,本物でない仮の意味の俗語とする説,
道家の書五千巻を撰した杜光庭を指す説,
等々異説もあるが,「杜」については説が分かれている。日本語源大辞典は,
「ズ(ヅ)は『杜』の呉音,サンは通常センと訓む『撰』の別音。中国宋代に話題となったことばで,『野客叢書』や『湘山野録』などで語源について論じられている。日本には禅を通じて入ったようで,『正法眼蔵』や,『下學集』の序文に使用例が見られるが,辞書では,『書言字考節用集』に『湘山野録』を引いて『自撰無承不拠本説者曰杜撰』と記述されている」
と書く。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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