「をろち」は,
おろち,
普通,
大蛇,
と当てる。ほぼどれも,
ヲ(オ)は「峰」,ロは接尾語(あるいは助詞,接辞),チは霊威あるもののの意,
としている(広辞苑)。「ヲ」を「尾」とするものも多くある(日本語源広辞典)が,「を(尾)」は,
「小の義。動物體中の細きものの意」
で(大言海),そのメタファで,
山尾,
という使い方をし,
山の裾の引き延べたる處,
の意に使い,転じて,
動物の尾の如く引き延びたるもの,
に使った。「を(峰・丘)」は,その意味の流れの中で重なったとみられる。
大言海は,「をろち」を,
ヲにロの接尾語を添へて尾の義,チは靈なり,尾ありて畏るべきものの義,
としているが,
「『ろ』は助詞で,現在使われている助詞の中では『の』に相当する語」
とあり(語源由来辞典),ほぼ同義である。「ち」は,
「ち(血)」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/465705576.html?1557945045),
「いのち」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/465724789.html),
で触れたように,
いかづち(厳(いか)つ霊(ち)。つは連体助詞),
をろち(尾呂霊。大蛇),
のつち(野之霊。野槌),
ミヅチ(水霊),
と重なり,「ち(霊)」は,
「原始的な霊格の一。自然物のもつはげしい力・威力をあらわす語。複合語に用いられる」
ので,
いのち(命),
をろち(大蛇),
いかづち(雷),
等々と使われ(岩波古語辞典),
「神,人の霊(タマ),又,徳を称へ賛(ほ)めて云ふ語。野之霊(ノツチ,野槌),尾呂霊(ヲロチ,蛇)などの類の如し。チの轉じて,ミとなることあり,海之霊(ワタツミ,海神)の如し。又,轉じて,ビとなるこあり,高皇産霊(タカミムスビ),神皇産霊(カムミムスビ)の如し」
なのである(大言海)。つまり,「をろち」は,
尾の霊力,
という意味になる(日本語源大辞典)。
(『日本略史 素戔嗚尊』に描かれたヤマタノオロチ(月岡芳年・画) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A4%E3%83%9E%E3%82%BF%E3%83%8E%E3%82%AA%E3%83%AD%E3%83%81より)
古事記のヤマタノロチは,
高志之八俣遠呂知,
と表記されている。八つの頭と鉢の尾をもつ恠異である。これについて,
「酒を飲まされたヲロチはスサノヲに切り殺されるが,その尾を切った時,剣が出てきた。三種の神器の一つ,草薙の剣である。(中略)『尾』こそが,得体の知れない恐ろしいヲロチの武器なのである」
とある(日本語源大辞典)。つまり,
尾から剣が出る,
とは,
尾の霊威,
の象徴なのである。また,「蛇」は,
水の神,
でもある。ヤマタノロチは,
「その身に蘿(こけ)と檜榲(ひすぎ)と生ひ,その長(たけ)は谷八谷・峡八尾(やお)に度(わたら)ひて,その腹を見れば,悉に血に爛れつ」
とある,まさに,
河川,
そのものの如くである。
「蛇神は一般に水の神として信ぜられたから,八俣の大蛇は古代出雲地方の農耕生活に大きな破壊をもたらした洪水の譬喩」
と見做す(日本伝奇伝説大辞典)のは妥当なのかもしれない。なお,大蛇から出た,
剣,
は,出雲・斐伊の河上流の,
鉄文化,
の象徴との見方もある(仝上)。
参考文献;
乾克己他編『日本伝奇伝説大辞典』(角川書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95