ためる


「ためる」(たむ)は,

溜める,
貯める,

とあてる「ためる」と,

矯める,
撓める,
揉める,

とあてる「ためる」がある。「溜める・貯める」は,

とどめる,
せきとめる,
たくわえる,

といった意味であり,「矯める」は,

曲がっているのを真直ぐにする,
改め直す,
いつわる,曲げる,
狙いをつける,

といった意味を持つ。大言海は,「たむ(撓)」は,

木竹など炙り,又は濡すなどして,伸べ,或は屈め,て,形を改む,

とあり,それが,転じて,

すべて物事を改め正しくす,

の意となり,それは,ある意味,

「無理にもとの形を変える。良くする場合も,悪くする場合にもいう」(岩波古語辞典)

ので,

偽る,

ともなる。また,

控え,支え持つ,

意を持つ。これが,

「腰だめ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/438168149.html),

の「ため」であり,

「ためつすがめつ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/455445472.html),

の「ため」でもある。室町末期の日葡辞書(『広辞苑』)にも,「テッポウ(鉄炮)ヲサダムル」とある。さらに,「たわむ(揉)」は,

撓(たわ)むの略,

とする。岩波古語辞典の「たむ」の項は,

タム(廻)と同根,

とある。大言海は,

撓む,

意とし,

くねり廻る,

とする。この「たむ」は,

廻む,
訛む,

とも当てる。

ぐるっとまわる,

意の他に,

歪んだ発音をする,

つまり,

訛る,

意もある。「たむ」は,漢字で当て分けているが,結局,

無理にもとの形を変える,

意であり,それが,

矯正,
でもあり,
偽り,
でもあり,
訛る,

でもある。しかし,「腰だめ」「ためつすがめつ」の,

狙いをつける,

はどこから来たか。勝手な臆説だが,

溜める,
貯める,

の「たむ」から来たのではないか。これは,

とどめる,
せきとめる,
たくわえる,

意であるが,岩波古語辞典の「たむ」には,

満を持した状態でおく,一杯にした状態のままで保つ意,

とある。それは,

集める,

意であるが,

留める,

意でもある。「腰だめ」の「ため」は,これと通じる。僕には,

溜,
貯,
廻,
訛,
矯,,
撓,
揉,

と漢字で当て分けているが,もともと「たむ」は,

曲げる,
直す,

といった意で,その派生として,

留める,
貯える,

と,漢字の意味に影響されて,意味の外延を広げたもののように思える。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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