「ポンコツ」は,
「もと,金槌の意とも,げんこつの意ともいう」
とある(広辞苑)。で,
「家畜などを殺すこと。また,古くなった自動車などをたたきこわして解体すること。転じて,老朽したもの,廃品」
の意である(仝上)。
屠殺→自動車の解体,
の意味の流れは,メタファとして分からなくもない。比較的新しい言葉だと思われ,
「俺達は牛牛と世間でもてはやされるやうにはなったけれど…四足を杭へ結ひつけられてぽんこつをきめられてよ」
という用例(安愚楽鍋)からみると,明治以降に思われる。
ポンコツ語源説には,
金槌説,
と
げんこつ説,
がある中で,大言海は,げんこつ説を採る。
「ポン」と「コツ」 という擬音説,
があり,「げんこつ」も,
「拳骨(げんこつ)」を聞き間違えたとする」
説らしい(語源由来辞典)。「金槌」も,
げんこつで殴る意味から大きなハンマーを意味するように,
なった(仝上)とし,
「自動車をハンマーで解体することから老朽化した自動車をポンコツ車というようになった」
とする(仝上)。この言葉が広まったのは,昭和34年の阿川弘之の新聞小説『ポンコツ』にある,
「ぽん,こつん。ぽん,こつん。ポンコツ屋はタガネとハンマーで日がな一日古自動車をこわしている」
という一節による(仝上)らしいので,
擬音説,
は,留保する必要があるし,
ハンマー説,
も保留する必要がある気がする。現に,
「ポンコツ」とは「大きなハンマー」のことであり、その語源は「ポンポン、コツコツ」という物をたたく音です。
(「ゲンコツ」で叩いたという異説もあります),
との説明もある(https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1035180425)。
「げんこつ」説を採るのは,大言海で,
ぽんこつ(拳)→げんこ(拳固),
と項を辿り,「げなこ」について
「拳子(けんこ)にて(接尾語の子…,猜拳(さいこ),面子(めんこ),固の字は,にぎり固むる意の当て字ならむ),怒りて毆(う)つより,濁らせて云ふか。ゲンコツと云ふはゲンコ毆(うち)の約。ゲンコチ,ゲンコツと轉じたるならむ(博打(ばくちうち),ばくち。垣内(かきうち),かきつ。梲(うだち),うだつ)。ポンコツは,洋人の,国語を聞きてあやまれるなるべし」
とし,
「開港場などにて洋人は,(げんこつを)ポンコツという」
とする。
「『げんこつ』と英語(punish)との混成語」
と見る説もある(日本語源大辞典)。語源由来辞典も,
「古くは、拳骨で殴ることを意味する言葉であるため、拳骨が有力 とも思えるが、拳骨で殴った時の音から、拳骨で殴る意味になったとも考えられる」
とする。東京日日新聞明治16年(1883)二月六日の記事に,
「筆者は若し仕損じなばポンコツの一つ位は飛來るべしと覚悟の体なりし」
とある(日本語源大辞典)とかで,
「古く拳骨で殴る意に用いられた」
というのが大勢だが,
「『ポンと打ち,コツンと叩く』です。屠殺,解体です」
との説(日本語源広辞典)は見逃せない。この意味の背景が無ければ,
屠殺・解体→自動車解体,
への意味のシフトが分からない。阿川弘之が,自動車解体で使ったのは,密かなタブー(解体は古く非人の仕事とされてきた)の意味の翳を知っていたからではないか,という気がする。広辞苑の説明は,さすがに光る。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:ポンコツ