「みの」は,
蓑,
簑,
と当てる。
わら,カヤ,スゲ,シナノキなどの植物の茎や皮,葉などを用いてつくった外被である。雨,雪,日射あるいは着衣が泥や水に汚れるのを防ぐために着用する。古くから農夫,漁夫,狩人などが着用した,という。
「《日本書紀》には,素戔嗚(すさのお)尊が青草をたばねて蓑笠としたと記してあり,《万葉集》にも見られるほか,12世紀の成立とされる《信貴山縁起絵巻》には,尼公の従者が蓑を着て旅する姿が描かれている。蓑の種類は,背蓑,肩蓑,胴蓑,丸蓑,腰蓑,蓑帽子の6種類に分けられるが,一般的に用いる蓑は肩蓑と胴蓑が多い。」
とある(世界大百科事典)。
「東北地方の背中を覆う『ケラ』がもっとも古く、『信貴山縁起(しぎさんえんぎ)』に、そのおもかげを察することができる。これを東北地方では背蓑ともいう。漁村では、多く腰から下に巻く腰蓑は、水を防ぐためのものであり、肩や背を覆う肩蓑、丸く編んだ丸蓑、帽子付きの蓑帽子、背蓑と腰蓑を継いでつくった胴蓑は猿蓑とよぶ地方もある。」
ともある(日本大百科全書)。
(信貴山縁起より 日本語源大辞典)
「蓑(簑)」(サイ,サ)は,
「会意兼形声。衰は,端をばらばらに切った粗末な衣。蓑は『艸+音符衰』で,端をそろえてない草の衣」
とある(漢字源)。「簑」は「蓑の俗字」とか(字源)。「草衣」ともいい,まさに「みの」の意である。
和語「みの」は,大言海が,
「身擔(みに)の轉かと云ふ」
とし,日本語源広辞典も,
「身+担う」の音便,
とし,
ミニナウ→ミナウ→ミノ,
の変化とする。似た説は,
ミニ(身荷)の転か(国語の語根とその分類=大島正健),
ミニナフ(身荷)の義(言葉の根しらべの=鈴木潔子),
等々もある。語源由来辞典も,
「『み』が体の「身」であると思われるが、『の』については特定が難しい」
としつつ,
「『ミニ(身担)』や『ミニ(身荷)』『ミヌ(身布)』の転、『ミニナフ(身荷)』や『ミオホ(身覆)』の意味、『ミノカサ(身笠)』の下略などある」
と類似説を挙げている。しかし,身に担うのは,別に「みの」だけではない。
(再現された蓑(武庫の郷にて) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%93%91より)
その他,「身」と絡ませるものに,
ミナビキ(身靡)の義(名言通),
ミオホ(身覆)の義(言元梯),
ミヌ(身布)の転か(国語の語根とその分類=大島正健),
ミノカサ(身笠)の下略(柴門和語類集),
身体をつかず離れずの関係にあるところからミノシロ(身代)の下略(偶人信仰の民俗化並びに伝説化せる道=折口信夫),
等々あるが,どうも納得できない。「身」と離れて,
ムギノホ(麦穂)の反(名語記),
ミナ(河貝子)から。ミノを着た全体の形は,頭を頂点として両肩から下へと円錐形をなし,ミノとは人が巻貝のミナの恰好をすることだった(続上代特殊仮名音義=森重敏),
と諸説がある。「ミナ」とは,
川蜷,
河貝子,
と当てる,「カワニナ」のことである。ホタル類幼虫の餌となることで知られる。かつては,食用にもした。
「日本の淡水にはカルシウムが少ないためで、カワニナに限らず淡水性貝類では殻頂部が侵食されている場合が多い」
とされる(日本大百科全書)。これに真似る,というより,逆なのではないか,「みの」があって,似ていることに気付いた,と。
(ミナ 日本大百科全書より)
「身」に絡ませるなら,これは,「みの」を着る感覚からいえば,
まと(纏)ふ,
か
はお(羽織)る,
である。「まとふ」は,
巻きつく,
意で,少し外れる。「はおる」は,
被(はふり)が羽織となり,それを活用した,
ものなので,「かぶる」につながる。
かぶ(被)る,
は,
かがふるの転,
「かかぶる」は,
頭からかぶる,
意で,また少しずれる。どうも,「みの」を,身と絡ませようとすると,それを着る語感と合わなくなる。やはり,
「『み』が体の「身」であると思われるが、『の』については特定が難しい」
ようである(語源由来辞典)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95