「隠れ蓑」は,ハリー・ポッターに出てくる透明マントのように,
それを身につけると他人からは姿が見えなくなるという,鬼や天狗が持つとされる想像上の蓑,
を指す。それが転じて,
真相を隠す手段の意,
を指すようになる。「蓑」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/469322736.html?1567105270)は,既に触れたように,藁,茅,菅,シナノキなどの植物の茎や皮,葉などを用いてつくった雨具である。岩波古語辞典を見ると,
隠れ蓑,
の他に,
隠れ笠,
というのもある。江戸期の型染木綿に,
宝尽くし紋(たからづくしもん),
というのがある。
(型染木綿、宝尽くし 上から分銅、巻き物、丁子、隠れ笠、小槌、宝袋、隠れ蓑、七宝、宝珠の宝尽くし https://musuidokugen.hatenablog.com/entry/takaradukushi)
「宝物を集めた文様です。福徳を呼ぶ吉祥文様として晴れ着などに多く使われています」
とある(https://kimono-pro.com/blog/?p=818)。その宝物として,
宝珠(ほうじゅ おもいのままになる),
打出の小槌(うちでのこづち 打てば宝がでてくる),
鍵(かぎ 大切なものを守る土蔵の鍵),
金嚢(きんのう 砂金や金貨を入れる),
宝巻・巻軸(ほうかん・まきじく ありがたいお経の巻物),
筒守(つつまもり 宝巻・巻軸を入れる物),
分銅(ふんどう 金を計る),
丁子(ちょうじ仏宝 貴重な薬・香料),
花輪違い(はなわちがい 七宝),
等々と並んで,
隠れ蓑・隠れ笠(かくれみの・かくれがさ 体が隠れる),
がある。江戸時代の桃太郎話では,桃太郎が鬼ヶ島から凱旋(がいせん)したときに持ち帰った財宝のなかに,これを着ると、その人間は透明人間になる,
隠れ蓑(みの),
と
笠
があったとされる(https://www.web-nihongo.com/edo/ed_p082/),とか。
(蓑を身に着けた男性,鈴木牧之『北越雪譜』の挿絵 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%93%91より)
大言海も,「隠れ蓑」「隠れ笠」の項で,
「共に,穏形(おんぎゃう)の法などに云ふものか。此蓑笠は,寶盡しと云ふものの中に,其形を畫きて飾りあり」
としている。寶物集に,
「昔より,隠れ蓑,打出の小槌を持たると云ふ人も,實はなし,隠蓑少将と申す物語も,あるまじき事を作りて侍る」
通り,想像の産物だが,『日本昔話事典』では,
宝物交換,
のひとつとし,「八化け頭巾」の一変化と見做す。「八化け頭巾」は,
狐が化けるのに必要な呪宝を人間が智謀で取り上げる話,
で,「隠れ蓑」も,こんな話である(日本伝奇伝説大辞典)。
「博奕に負けた博奕打が賽を転がして『京が見える,大阪が見える』と言い,天狗の持っている隠れ蓑笠と取り換える。天狗は騙されたことをすぐに知るが,博奕打ちはすぐさま蓑笠で姿を隠し,料理や菓子を盗んで歩く。あまり汚い蓑笠なので,女房が焼いてしまう。残った灰を体に塗ってみると姿が隠れるので,また,したい放題をする。あるとき,酒を盗み飲んだところ,口の周りだけ灰が取れ,見破られてしまう」
多く,蓑笠を焼くのは,母親か女房であり,看破される寸前に助け出すのも女房である。
「致富譚における援助者としての女性の位置」
が見られる(仝上),とある。
「蓑を着けた姿は,古代の常世からの来訪者の姿に通じており,少なくとも蓑の異様な外観に神秘的なものが感じられた」(日本昔話事典)
「蓑を着けた姿は常世からの来訪者の姿であると信仰され,中世では隠れ蓑は宝の一つに考えられていた」(日本伝奇伝説大辞典)
やはり,姿が隠せることに,憧れがあったのは,洋の東西を問わないらしい。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
稲田浩二他編『日本昔話事典』(弘文堂)
乾克己他編『日本伝奇伝説大辞典』(角川書店)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:隠れ蓑