2019年09月06日

隠れ里


「隠れ里」には,

世の煩わしさを避け,世間に隠れて棲む所,特に貴人が山奥に隠れ住んでつくった部落を言い,伝説化しているところが多い,

という意味と,

山中や地下にあるといわれる人の知られぬ別世界,多くは椀貸し伝説に結びつく,

という二つがある(広辞苑)。前者は,

平家の落人部落,

という類で,後者は,日本の民話、伝説にみられる,

桃源郷,

で,

山奥や洞窟を抜けた先などにある,

と考えられたhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9A%A0%E3%82%8C%E9%87%8C。隠れ里は,

奥深い山中や塚穴の中、また川のはるか上流や淵の底にあると想像されている別天地,

であり(仝上),

隠れ世,

隠田百姓村(おんでんひゃくしょうむら),

等々の呼称もある。そんなアナロジーなのか,

遊里,

特に,私娼の場所を言ったりする,らしい(岩波古語辞典)。

「猟師が深い山中に迷い込み、偶然たどり着いたとか、山中で機織りや米をつく音が聞こえた、川上から箸やお椀が流れ着いたなどという話が見られる。そこの住民は争いとは無縁の平和な暮らしを営んでおり、暄暖な気候の土地柄であり、外部からの訪問者は親切な歓待を受けて心地よい日々を過ごすが、もう一度訪ねようと思っても、二度と訪ねることはできないとされる」

という伝承は,落人伝説と共に,

「仏教の浄土思想渡来以前の、素朴な山岳信仰、理想郷の観念が影響している」

とされ,二つの「隠れ里」は微妙に重なっている。理想郷の伝承があるから,貴人の落人伝説が生まれてくる,というように。

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(鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』・「隠れ里」。右下に見えるネズミと小判は「鼠浄土」に見られる「地下にいる鼠が福をもたらす」話と通じる。その左には「嘉暮里」(かくれざと)の暖簾が見える https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9A%A0%E3%82%8C%E9%87%8Cより)

「各地の隠れ里伝承を比較研究した民俗学者の柳田國男は、概して西日本の隠れ里は夢幻的で、東北地方に行くにしたがって具体性を帯びていくという指摘をしている」

とか。たとえば,「椀貸し伝説」は,

「椀や膳が入用なとき,その淵に頼めば貸してくれる」

というもので,「淵」は,

川,
池,
沼,
塚,
洞穴,
風穴

等々ともなる。

「これらの伝承を持つ地は竜宮につながっているということも多くみられ,貸主は淵の主である龍神,河童,大蛇,乙姫などが多い。このことから,椀貸し淵伝説は,富や幸をもたらす水底の異郷に対する信仰を根底にし,これらのや池,沼などは竜宮へつながる出入口のように考えられていた」

とある(日本昔話事典)。

「隠れ里を訪ねた者の話には、贅沢なもてなしを受けたとか、高価な土産をもらったとかいうものがある。隠れ里は概ね経済的に豊かであることが多い。また、隠れ里に滞在している間、外界ではそれ以上の年月が経っていたという話もあり、時間の経ち方が違っていることもある」

ともありhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9A%A0%E3%82%8C%E9%87%8C

浦島太郎,
鼠浄土,

といった説話とつながってくる。

「常世の国が海の彼方という不可能性を帯びた所に在るのに対して、隠れ里は地下の国や深山幽谷といった一応到達可能な点に置いている」(仝上)

たとえば,「鼠浄土」は,

おむすびころりん,

である。

鼠の餠つき,
団子浄土,

等々ともいう。

「 おじいさんが、いつものように山で木の枝を切っていた。昼になったので、昼食にしようとおじいさんは切り株に腰掛け、おばあさんの握ったおむすびの包みを開いた。すると、おむすびが一つ滑り落ちて、山の斜面を転がり落ちていく。おじいさんが追いかけると、おむすびが木の根元に空いた穴に落ちてしまった。おじいさんが穴を垣間見ると、何やら声が聞こえてくる。おじいさんが他にも何か落としてみようか辺りを見渡していると、誤って穴に落ちてしまう。穴の中にはたくさんの白いねずみがいて、おむすびのお礼にと、大きいつづらと小さいつづらを差し出し、おじいさんに選ばせた。おじいさんは小さいつづらを選んで家に持ち帰った家で持ち帰ったつづらを開けてみると、たくさんの財宝が出てきた。」

という話https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8A%E3%82%80%E3%81%99%E3%81%B3%E3%81%93%E3%82%8D%E3%82%8A%E3%82%93で,この続きは隣の意地悪爺さんが真似をして,欲をかいて失敗する,というお定まりの話になる。なぜ「鼠」なのか。

「ネズミは神に関わる動物だとする俗信と,生活苦のない,物の豊かな浄土への憧れと,物をとって貯えるネズミの習性の観察とがある。古来,ネズミは作物などに甚だしい害を加えるにもかかわらず畏敬されてきた。白ネズミは農神であり富の神とも信仰されてきた大黒天の使者だといわれている。」

という(日本昔話事典)。そしてこの「鼠浄土」は,

根の国,

とつながる。柳田國男は,この「根の国」を,

「沖縄のニライ,ニルヤ,儀来(ぎらい),根屋(ねんや)などと同系のものと考え,本来は,光明の地であり,生命や豊穣(みのり)の源泉」

と考えた(仝上)。それは折口信夫の,

常世郷(とこよのくに)の信仰,

と重なる。「隠れ里」は,

常世の国,

を海の彼方から,この地にスライドさせたものであった。結局,苦しく貧しい,この世とはかけ離れた豊かな世界へのあこがれの反映とみられる。今日のわれわれにとって,その常世の国は,何処に比定されてるのだろう。

なお,日本各地の「隠れ里」伝承については,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9A%A0%E3%82%8C%E9%87%8C

に詳しい。

参考文献;
鳥山石燕『画図百鬼夜行全画集』(角川ソフィア文庫)
稲田浩二他編『日本昔話事典』(弘文堂)
乾克己他編『日本伝奇伝説大辞典』(角川書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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