「狸寝入り」とは,
空寝 (そらね) ,
狸眠り,
たぬきね,
たぬきねぶり,
等々とも言い,
眠ってるふりをすること,
だが(広辞苑),
都合の悪いときなどに,寝たふりをすること,
の方がこの言葉の含意を捉えている。
「狸は強く驚くと死んだまねをするところから」
とある(精選版 日本国語大辞典)。
「もとは臆病な動物の狸がびっくりした際などに一瞬、気絶してしまい、眠ったようになることに由来しています。また、人をだますとされている狸が気絶している姿を人々は自分たちをだますための空寝と思い、『狸寝入り』と言うようになりました」
ともある(https://dic.nicovideo.jp/a/%E7%8B%B8%E5%AF%9D%E5%85%A5%E3%82%8A)。同趣のものに,
「狸寝入りという言葉は、江戸時代の文献にも見られる。 タヌキは臆病な動物で、驚いた 時には倒れて一時的に気を失い、眠ったようになる。 昔からタヌキは人を騙すと思われ ており、この姿をタヌキが人を騙すための空寝と考え、「狸寝入り」と喩えられるように なった」
とある(語源由来辞典)。江戸語大辞典の「たぬき」の項は,
狸寝入りの略,
のみ載り,
おきなんしなどと狸へよりかかり,
という川柳が載る(柳多留)。
「たぬき」は,
狸,
貍,
と当てる。
(『和漢三才図会』より「狢」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A0%E3%82%B8%E3%83%8Aより)
「アナグマと混同され両者ともムジナ・貒(まみ)といわれる。ばけて人をだまし,また腹鼓を打つとされる」
とある(広辞苑)。「むじな」は,
狢,
貉,
とあてるが,「むじな」は,
アナグマ,
の異称。しかし,
「混同して,タヌキをムジナとよぶこともある」
とある(広辞苑)。和名抄には,
「貉,無之奈,似狐而善睡者也」とあるが,
文明本節用集には,
「貉,ムジナ,狸類」
とある(岩波古語辞典)。
「江戸時代以降は、たぬき、むじな、まみ等の呼ばれ方が主にみられるが、…狢(むじな、化け狢)猯(まみ)との区別は厳密にはついておらず、これはもともとのタヌキ・ムジナ・マミの呼称が土地によってまちまちであること・同じ動物に異なったり同一だったりする名前が用いられてたことも由来すると考えられている」
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8C%96%E3%81%91%E7%8B%B8)。「たぬき」も,「むじな」も,人を化かす。
「民間伝承では、タヌキの化けるという能力はキツネほどではないとされている。ただ、一説には『狐の七化け狸の八化け』といって化ける能力はキツネよりも一枚上手とされることもある。実際伝承の中でキツネは人間の女性に化けることがほとんどだが、タヌキは人間のほかにも物や建物、妖怪、他の動物等に化けることが多い。また、キツネと勝負して勝ったタヌキの話もあ…る。また、犬が天敵であり人は騙せても犬は騙せない」
という(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%83%8C%E3%82%AD),とある。
(鳥山石燕『画図百鬼夜行』より「狸」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8C%96%E3%81%91%E7%8B%B8より)
「ムジナ」も,人を化かす。
「むじなの化かし方は大きく分けて3つあり、1つ目は田や道を深い川のように思わせる。2つ目は馬糞をまんじゅうに、肥溜めを風呂のように思わせる。3つめは方向感覚をなくすということである」
とあり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A0%E3%82%B8%E3%83%8A),
「日本の民話では、ムジナはキツネやタヌキと並び、人を化かす妖怪として描かれることが多い。文献上では『日本書紀』の推古天皇35年(627年)の条に『春2月、陸奥国に狢有り。人となりて歌う』とあるのが初見とされ、この時代にすでにムジナが人を化かすという観念があったことが示されている。下総地方(現・千葉県、茨城県)では『かぶきり小僧(かぶきりこぞう)』といって、ムジナが妙に短い着物を着たおかっぱ頭の小僧に化け、人気のない夜道や山道に出没し『水飲め、茶を飲め』と声をかけるといわれた」
と載る(仝上)。
(鳥山石燕『今昔画図続百鬼』より「狢」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A0%E3%82%B8%E3%83%8Aより)
では「たぬき」は,語源は何か。大言海は,
「皮,韛(たぬき)に佳なるより名とするかと云ふ」
と,皮の用途から来たとする。これは,
皮をタヌキ(手貫き)に用いるところから(名言通・和訓栞・ことばの事典=日置昌一),
と同じである。日本語源広辞典は,
「タ(田)+の+キ(動物)」
と,田に出回るという意味を採る。
タノキミ(田君)の訛か(ことばの事典=日置昌一),
タノケ(田之快)の義か。また田猫の義か(燕石雑志),
等々と似ている。「田猫」というのは,『和漢三才図会』が,「タヌキ」の名として,「野猫」と記しているのとつながるのかもしれない。これらをみると,「タヌキ」はそれほど恐れられていないように見える。しかし,
「鎌倉・室町時代の説話に登場するタヌキには、ときに人を食うこともあるおどろおどろしい化け物としてのイメージが強い」
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%83%8C%E3%82%AD)ので,語源のイメージとしては,新し過ぎるように見える。
「ムジナ」は,大言海は,
「貉は茂(も)し穴(な)に棲み,熊は隈(くま)に棲むと云ふ。共に棲む所より云ふ」
と,住処が語源とみなす。他に,
その声をきらって,ウンジキナ(倦鳴)の義(名言通),
クシイヌ(奇狗)の義(言元梯),
等々あるが,これもはっきりしていない。
参考文献;
鳥山石燕『画図百鬼夜行全画集』(角川ソフィア文庫)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95