2019年09月12日
タニシ
「タニシ」は,
田螺,
と当てる。
「螺」(ら)は,
「会意兼形声。『虫+音符累(いくえにもなる,ぐるぐるまく)』」
とあり(漢字源),
たにし,さざえなど,螺旋状のからをもつにし類の総称,
である(仝上)。「にし」は,
螺,
と当て,
巻貝の一群の総称,
である(広辞苑)。「タニシ」は,日本には、大形のオオタニシ、中形のマルタニシ・ナガタニシ、小形のヒメタニシがいるらしい。ナガタニシは琵琶湖だけに棲息する固有種である。
大言海には,
古名たつび,
たつぶ,
たつぼ,
つぶ,
の呼称が載る。古名タツビは,
田中螺,
と当てる(たべもの語源辞典)。語源説には,
「タニシのタは田で,ニシは螺,巻貝のことで,田に棲む巻貝という意である。ニシのニは丹で殻の赤いことをいい,シは白で身が白いという説,ニシン(丹肉)の約だという説もある。また殻が赤いから丹(ニ)で,シは助辞であるという説もある。さらに,ニシム(丹染)からニシになったというセッションもある」
等々(仝上),また,
他に住む貝の王者という意でタヌシ(田主)の轉語(衣食住語源辞典=吉田金彦)
もあるが,はっきりしない。古名「たつび」は,
たつぶ(田粒)
の意と思われる。「つぶ」は,「つぶら」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/464485052.html)で触れたように,
丸,
粒,
と当て,
「ツブシ(腿)・ツブリ・ツブラ(円)・ツブサニと同根」
である(岩波古語辞典)。
円い小さい立体,
の意の「つぶ」であったのではないか。その後,「にし」という概念を知り,
田の螺,
という名を変えた,と思われる。
古くから貴重な食料としてなじみのあった「タニシ」は,昔話の中では,農民生活と縁の深い水田や池沼に生息することから,
水の神の使令,
と見なされてきた(日本昔話事典)らしい。
田螺長者,
田螺と狐,
田螺と烏の歌問答,
等々の昔話がある。「田螺長者」は,子のない夫婦が神に祈願して得た子がタニシであったが,
「子供のない老夫婦が子供を恵んでくださるよう村はずれの観音様に祈ると、老婆に子供ができた。しかし、生まれた子供は人間ではなく田螺だった。それでも老夫婦は観音様からの授かりものとして、大切に育てることにした。
ある日、ふとしたきっかけで、馬の耳元(あるいは耳の中)から馬に囁くことで、自在に馬を操る才能があることが分かり、以後馬による荷運びを手伝うようになる。そのことが評判になり村の庄屋が話を聞き知るようになった。
庄屋は田螺の出自を知ると、観音様のご利益にあやかりたいと思い、田螺と自分の娘を夫婦にする。信心深い娘は、田螺との結婚を嫌がることもなく、円満に暮らし始める。ある夏祭りの日に夫婦で観音様にお参りに行った帰りに、烏に襲われる。その弾みで殻が割れてしまうが、中から普通の大きさの人間の男になった(元)田螺が現れる。それから(元田螺)夫婦と老夫婦は末永く幸せに暮らしたという」
という話(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B0%E8%9E%BA%E9%95%B7%E8%80%85),「田螺と狐」は,
「タニシと狐が駈け比べをする。タニシは狐の尻尾に食いついていって,決勝点で飛び降り勝利を得る」
という話(日本昔話事典)。「田螺と烏の歌問答」は,カラスに食べられそうになったタニシは,
「烏をほめて,その姿を美しく形容した歌を歌う。(中略)烏はそれを聞いて喜んで木の上に引き上げる。タニシはそれを見て,『おのれの背見りゃ鍋の尻(けつ),おのれの目玉は味噌ごし目玉』とからかって,田の中にもぐってしまう」
という話(仝上)。昔話の中では,タニシは,
小さいながら機知で身を守るもの,
として表現されているようである。神の使令のイメージが強いせいだろうか。
参考文献;
稲田浩二他編『日本昔話事典』(弘文堂)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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