2019年09月13日

くも


「くも」は,

蜘蛛,

と当てる。「くも」は,地方によって呼び名が異なり,四国の太平洋側では,

グモ,

東北・北陸地方では,

クボ,

九州では,

コブ,

という(日本昔話事典),とある。

漢字「蜘蛛」の,「蜘」(ち)は,

会意兼形声。『虫+音符知(=踟 小刻みにすすむ)」

とあり(漢字源),「蛛」(チュウ)は,

会意兼形声。「虫+音符朱(=株 ひとところにじっとまっている)」

どあり,ともに「くも」の意である。「蜘蛛」(チチュウ)は,

小刻みに動いてはとどまる,

ところから,「くも」である。「蜘躅」と同系とされる。「躅」(チョク)は「いもむし」の意である。

大言海は,

「沖縄にて,クム。朝鮮にて,ケムイ」

と載る。沖縄の「クム」は,九州の「コブ」という呼び名と,音韻のつながりがありそうである。朝鮮由来と見る説には,日本語源大辞典に載る,

朝鮮語kömïiと同源(万葉集・日本古典文学大系),
朝鮮の俗語で蜘蛛をいうクムとからか(東雅),

がある。日本語源広辞典は,

説1,中国語kobu,kumoの音韻変化,
説2,ク(組)+モ(モチ,ねばる),

の二説を挙げる。しかし,「ク(組)+モ」なら,

kumu→kumo,

とシンプルな音韻変化だってあり得るのではないか。現に,

網を汲む虫ということから,クム(組)の転か(和語私臆鈔・閑田耕筆・言元梯・碩鼠漫筆),
巣をクム(組)の義。または,捕えると手を組んで腹を抱えることから,手をクム(組)の義(滑稽雑誌所引和訓義解),
スクミモリ(巣組守)の義(日本語原学=林甕臣),

等々と,「くむ(組む)」と関わらせる説がある。

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(コガネグモ(黄金蜘蛛) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%A2より)

その他,巣を張って待つところから,

巣に籠っているところから,コモリ(籠)の義(名言通),
手を拡げたさまが雲に似ているからか(河社),
蜘蛛の巣が雲に似ているから(九桂草堂随筆),

等々もある。「雲」は,

「雲る」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/459727462.html

で触れたように,「くもる」は,

「隠(くも)る義なりと云ふ(かくむ,かこむ。くくもる,くこもる)」(大言海)
「黒雲の中に(雨)コモル(籠る)は(天)クモル(曇る)に転音・転義をとげた」(日本語の語源)。
「『隠る・籠る』と語源が等しい」(日本語源広辞典)

等々と,

クモル(隠る)→クモ(雲)→クモル(曇る),
か,
コモル(籠る)→クモル(曇る)→クモ(雲),

クモルあるいはコモル→くもり→くも,

かは,別として,「こもる」と関わる。その意味で,「蜘蛛」と「雲」がつながる,と見るのは無理筋ではない。

「蜘蛛」は,

「賢淵伝説として全国に広く分布する水蜘蛛伝説にも見られるように,クモは水界の靈と信じられていた」

とある(日本昔話事典)し,

「九州地方には蜘蛛合戦の習俗があるが,これはクモを神の仮の姿と信じる蜘蛛占いの一つである。夜グモが凶兆とされるのは,外観の奇怪さとともに夜出現する神を畏怖する心が恐怖心に変化したものであろう」

とする(仝上)。因みに,賢淵伝説は,たとえば,広瀬川の伝承として,

「仙台の城下町のはずれに当たるこの付近は茶屋町と呼ばれていたが、ここに住むある男が淵で魚釣りに興じていた。ふと気が付くと、一匹の蜘蛛が川面から現れて男の足首に糸を巻き付けた。気に留めた男は糸をはずすと、そばにあった柳の木の根元にそれをくっつけた。しばらくして気付くと、また同じ蜘蛛が男の足首に糸を巻き付けていたので、同じように柳の根元にくっつけた。こうして巻き付けられた糸を何度もはずしては根元にくっつけていたのだが、突然あたりを揺るがすような大きな音がしたかと思うと、柳の木が根こそぎ引き抜かれ、勢いよく淵に引き込まれていったのである。突然の出来事に男が肝を潰していると、水の中から「かしこい、かしこい」という声が聞こえてきた。そこでようやく、淵の主である蜘蛛が自分を引きずり込もうとして足首に糸を巻き付けていたこと、そして自分が糸を柳の木に付け替えていたために身代わりに柳が淵に引きずり込まれたことに気付いたのであった。それ以降、この淵は“賢淵”と呼ばれるようになったという」

というのが載る(https://www.japanmystery.com/miyagi/kasikobuti.html)。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:蜘蛛 くも
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posted by Toshi at 04:09| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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