2019年10月08日

入舞


「入舞(いりまい)」は、

入綾(いりあや)、

ともいう。「入綾」は、

「舞楽で、舞終了後の退出作法。舞楽曲の中心となる当曲(とうきょく)を舞い終わり、同じ曲が反復演奏(重吹 しげぶき)される中を、舞人は中央に縦一列になり、その曲の舞の手を続けながら、順次退出する」

という意で、その意が転じて、

物事の終わり、

の意となる(広辞苑)。これだとわかりにくいが、

「唐楽の特定の曲 (いずれも4あるいは6人舞) において,舞人全員がうしろ向きとなり,舞いながら中央によって縦に一列となり,降台する舞人以外は舞い続けて下臈の舞人から順次退場する様式。当曲 (舞楽の中心となる曲) を続けて奏する。入手 (いるて) といえば,出手 (でるて) と同じ舞手をおのおのの舞座で同時に行い,終了後,左回りにその場で一周して順次下臈より降台することで,特定の退場楽を用いるが,当曲を重ねて奏するときは重吹 (しげぶき) という」

とあり(ブリタニカ国際大百科事典)、さらに、

「舞楽が終わって、舞人が退場するとき、いったん御前に引き返してから、改めて舞いながら楽屋にもどること。また、その舞。特定の曲に限ってこれを行なう」

ともある(精選版 日本国語大辞典)。どうやら、舞い終わった後、それぞれの立ち位置から、中央へ戻り、舞いながら、舞仕舞いをしていくことらしい。

入り際のあや、

の意(岩波古語辞典)とある。大言海は、

「舞の手を、あやおりの手に譬えて云ふ語かと云ふ」

とする。

老いの入舞、

という言い方がある。

老いの入り前、

とも言う。

晩年に一花を咲かせる、

意であり、世阿弥は、

「人の目には見えて嫌ふ事を、我は昔より此のよき所を持ちてこそ名をも得たれ、と思ひつめて、そのまま人の嫌ふ事をも知らで、老いの入舞をし損ずるなり」

という言葉を残している(「花鏡(かきょう/はなのかがみ)」故事ことわざの辞典)。

「花鏡」の中で、

初心忘るべからず、

について、世阿弥はこう言っている。

是非初心不可忘
時々(ときどき)初心不可忘
老後初心不可忘

と。老後について、

「老後の初心忘るべからずとは、命には終わりあり、能には果てあるべからず。その時分時分の一体一体を習ひわたりて、又老後の風体に似合ふ事を習ふは、老後の初心也。老後の初心なれば、前能を後心とす。五十有余よりは、『せぬならでは手立てなし』と言へり。せぬならでは手立てなきほどの老後にせんこと、初心にてはなしや。さるほどに、一期初心を忘れずして過ぐれば、上がる位を入り舞にして、終に能下がらず」

とあるhttp://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/contents/learn/edc9/zeami/gyouseki/kakyou02_1.html。ちなみに、是非の「初心」については、

「是非初心忘るべからずとは、若年の初心を不忘して、身に持ちてあれば、老後にさまざまの徳あり。『前々(ぜんぜん)の非を知るを、後々(ごご)の是とす』と言へり。『先車のくつがへす所、後車(ごしゃ)の戒め』と云々。初心を忘るるは、後心をも忘るるにてあらずや。功成り、名遂ぐる所は、能の上がる果也。上がる所を忘るるは、初心へかへる心をも知らず。初心へかへるは、能の下がる所なるべし。然者(しかれば)、今の位を忘れじがために、初心を忘れじと工夫する也。…初心を忘れずば、後心正しかるべし。後心正しくば、上がる所の態(わざ)は、下がることあるべからず。」

とある(仝上)。更に、時々の初心は、

「時々の初心を忘るべからずとは、是は、初心より、年盛りの頃、老後に至るまで、其時分時分の芸曲の、似合ひたる風体(ふうてい)をたしなみしは、時々の初心也。されば、その時々の風儀をし捨てし捨て忘るれば、今の当体の風儀をならでは身に不持。過ぎし方の一体(いってい)一体を、今当芸ににみな一能曲持てば、十体(じゅってい)にわたりて、能数尽きず。其時々ありし風体は、時々の初心也。それを当芸に一度に持つは、時々の初心を忘れぬにてはなしや」

と(仝上)。つまるところ、

老いの入舞、

が最後の一花になるには、イチローの言葉ではないが、小さな一歩一歩を、初心として身に着けてきた果てにこそある、ということになる。

ところで、大言海は、「入舞」について、

二の舞と同趣の語、

としているが、いささか違うのではないか。

「二の舞」http://ppnetwork.seesaa.net/article/449197717.htmlで触れたように、「二の舞」はただ二度目の舞の意ではない。大言海にしては、軽忽の言葉に思える。

参考文献;
尚学図書編『故事ことわざの辞典』(小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:入舞
posted by Toshi at 04:46| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください