2019年10月14日

蛇女房


へびhttp://ppnetwork.seesaa.net/article/433628380.htmlについては触れたことがあるが,「蛇」は、

クチナワ、
ナガムシ、
カガチ、

等々と呼ばれ、古来神聖な動物として崇められてきた。阿部正路氏は,

「蛇の古語はナビ=奈備である。それを鎮めて神奈備とし,日本の神の基本に据えたのも所詮蛇への畏怖である。」

とし、妖怪の「濡れ女」にしても,「ろくろく首」にしても,蛇を根底においた妖怪,であるらしい。『俵藤太物語』には,大蛇に頼まれて近江国三上山の巨大な百足を退治する話が出ているが,

「蛇と水と龍はひとつながりの存在であり,蛇が人間の力を借りて百足を退治するのは,足のない妖怪の足を持つ者への限りない恐れを暗示する」

という。しかし,思うに,

「竜蛇の力こそ人間にとって理想の怪力をもたらすもの」

と思われていて(仝上)、

「特に湿地帯に生息するゆえに水の神とも観じられたきた」

のである(日本昔話事典)。

「蛇女房」は、

異類婚姻譚(いるいこんいんたん)、

のひとつである。つまり、

人間と違った種類の存在と人間とが結婚する説話の総称異種婚説話、

であるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%95%B0%E9%A1%9E%E5%A9%9A%E5%A7%BB%E8%AD%9A。この「動物」には、慣例的に、架空の山姥、鬼、河童、天人等も含まれるらしい。関敬吾氏による分類では、

援助 - 例:動物を助ける。
来訪 - 例:動物が人間に化けて訪れる。
共棲 - 例:守るべき契約や規則がある
労働 - 例:富をもたらす。
破局 - 例:正体を知ってしまう。(見るなのタブー)
別離

と、六つの要素で構成される(仝上)。そこには、

異類婿譚、

異類女房、

とがあり、「異類婿」は、

「人間の女と動物の婚姻。何かと引き替えに、女性が一種の人身御供として異類と結婚する羽目に陥る。女性自ら婚姻が破綻する様に画策し、破局させる話も多い」

とあり(仝上)、

蛇婿、
猿婿、
犬婿、
河童婿、
馬婿、
鼠婿、
一寸法師、

等々があり、「異類女房」は、

「人間の男と動物の婚姻。異類婿よりは比較的悲惨でない話が多い。見るなのタブーを犯すことで離別する結末を迎える話も多い」

とあり、

蛇女房、
竜宮女房、
魚女房、
蛤女房、
亀女房、
鶴女房、
天人女房、
狐女房、
猫女房、
蛙女房、
雪女、
木霊、
山姥、
クモ、
河童、
鬼、
鉢かつぎ、

等々がある(仝上)。

「蛇婿」は、「蛇」と交換可能な、

狐、狸、猫、蛙、いもり、たら、うなぎ、魚、たにし、蜘蛛、むかきで、けむし、

と、他の動物と交替しただけの説話があるのに対して、「蛇女房」に替わる動物の話はない(異類婚姻譚に登場する動物)。このことに何か意味があるのかどうか。

「蛇女房」とは、

「ある若者が蛇を助け、やがて美しい女がやってきて若者と夫婦になる。女房は妊娠し、覗いてくれるなと部屋に入ってお産をするが、つい夫が覗くと大蛇が赤児を産んでいる。女房は見られたことを悟り、自分は池の主で助けられた蛇であると告げ、子供を育てるための玉(片目)を置いて去る。(その玉をしゃぶって無事成長するが)その玉が有名になり殿様に取り上げられてしまう。夫は困って池へ行き事情を話すと、母親の蛇が現れてもう片方の目を与え、これで盲目になってしまい時もわからないので、寺に鐘を寄進して朝夕衝いてくれと夫に頼む(または、夫と子供を安全なところに逃がした後、洪水を起こして殿様に復讐する)」

という話である(日本昔話事典、日本伝奇伝説大辞典)。全国に百以上分布している、という。「お産の時部屋を見るな」という

産屋の禁忌、

は、古く『古事記』の、

豊玉姫神話、

に遡るが、この型の話にしか残っていない、という(日本昔話事典)。

この説話は、蛇が水の神と関連する霊的な動物とされるため、水を支配する蛇の存在を表現しているが、伝説として語られるため、たとえば、蛇の頼んだ鐘は、近江の、

三井寺の鐘、

とする例も多い。また

鴻の池(徳島)、
龜ケ池、龍泉寺(奈良)、
鏡ケ池(栃木)、
お仙ケ淵(岩手)、

と、池の伝説と結び付けられている例もある(仝上)。

蛇の目玉は、

「動物ことに魚の目が精力を強めるという(民間)信仰」

と関係がある、との見方もあるが、蛇の棲む淵を、

座頭淵、

と呼んだ例もあり、この種の説話の分布には、

「盲人、座頭が参与したのではないかと思われる。座頭は古くから水の神の信仰と関係があった」

とするのはなかなか興味深い(日本昔話事典)。ちなみに、この子はのちに、

俊仁将軍(御伽草子「田村の草子」)、
あるいは、
安倍晴明(長崎)、

となる、という出世譚もあるが、豊玉姫神話の、

鵜葺草葺不合尊(うがやふきあえずのみこと)、

になるのをなぞっている、ともいえる。

参考文献;
阿部正路『日本の妖怪たち』(東京書籍)
中村とも子・弓良久美子・間宮史子『異類婚姻譚に登場する動物』https://ko-sho.org/download/K_010/SFNRJ_K_010-09.pdf
稲田浩二他編『日本昔話事典』(弘文堂)
乾克己他編『日本伝奇伝説大辞典』(角川書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:51| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください