「卓袱」は、
卓袱台(ちゃぶだい)、
の「卓袱」でもあるが、
しっぽく、
と訓ませると、
卓袱料理の、
「卓袱」である。「卓袱」は、「ちゃぶだい」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/471364060.html?1572983256)で触れたように、
卓袱、
は、
テーブルクロスの意の中国音zhuō fú、
からきて、転じて、
食卓、
の意となり、
卓袱料理、
の意でもある。
「『卓』の字をシツと訓むのは、広東か東京(トンキン)の方言かと言われる。卓(シツ)・袱(ポク)、いずれも唐音である」
とある(たべもの語源辞典)。
「中国語で『卓』はテーブル、『袱』はクロスの意味(袱紗など)を持つ。また、長崎奉行所の記録には『しっぽく』は広南・東京(トンキン)方面(現在のベトナム中部、北部)の方言と記されている」
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%93%E8%A2%B1%E6%96%99%E7%90%86)。
ただ、卓袱料理は、
料理の種類でなく、卓やテーブルを使う食べ方を意味する、
と見た方がいいのかもしれない(仝上)。たとえば、
「和食、中華、洋食(おもにオランダなど)が盛られたコース料理を大勢で囲んで食べるもの。別名「和華蘭料理(わからんりょうり)」とも呼ばれる、長崎に伝わる国際色豊かな宴会料理。中国料理同様に円卓を囲み、大皿に盛られた料理を各自が自由に取り分け食べるのが卓袱料理の基本スタイル」
とか(http://local-specialties.com/gourmet/000337.html)、
「大皿に盛られたコース料理を、円卓を囲んで味わう形式をもつ。和食、中華、洋食(主に出島に商館を構えたオランダ、すなわち阿蘭陀)の要素が互いに交じり合っていることから、和華蘭料理(わからんりょうり)とも評される。日本料理で用いられている膳ではなく、テーブル(卓)に料理を乗せて食事を行う点に特徴がある。 献立には中国料理特有の薬膳思想が組み込まれていると考えられている」
とか(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%93%E8%A2%B1%E6%96%99%E7%90%86)、
「和食、洋食、中華料理が融合した国際色豊かなコース料理で、大きな円卓に多くの料理を並べる長崎県の郷土料理です。別名『和華蘭(わからん)料理』とも呼ばれ、長い歴史の中で異国の影響を受け続けてきた国際都市『長崎』だからこそ生まれた料理ともいえます。『卓袱料理』は一つの大きなテーブル、円卓に大皿を並べて大勢で各自が取り分けて食べるのですが、同じ形式の料理は中華料理にあり、『卓袱料理』の基本は中華料理にあります。中華料理のように大きなテーブルに料理をのせた大皿を並べて、料理にはポルトガルやオランダ(蘭)など西洋の洋食、そして日本の伝統の和食文化を取り入れたのが「卓袱料理」というわけです」
とか(https://kyoudo.kankoujp.com/?p=40)、
「長崎の郷土料理で、ひとつの円卓を囲んで大皿に盛られた料理を各自がとり分けて食べる中国の食事様式をとり入れたもの。料理は椀以外は人数分を大皿に盛る。お鰭(ひれ)という吸い物で始まり、大皿や大鉢に盛られた刺身、豚の角煮、長崎天ぷらなどの料理が続き、最後は「梅椀」と呼ばれる汁粉などの甘味となる」
とか(日本の郷土料理がわかる辞典)、要は、
「1つの卓を囲んで,大きな皿に盛った料理を,各自が小皿に取分けて食べる様式。中国から伝わった同形式の普茶料理が精進であるのに対し,魚介・肉類を用いるのが特徴」(ブリタニカ国際大百科事典)
というスタイルになる。長崎における卓袱料理の起源ははっきりしていないようだが、
「元和・寛永期(1615年-1643年)に崇福寺、興福寺などの唐寺が建立、徳川幕府により朱印船が廃止、対中国貿易が長崎港に限定されたため、かなりの中国人が滞在していたものとみられる。1689年(元禄2年)に唐人屋敷が整備されるまでは、中国人と日本人が市中に雑居しており、互いに招きあい、食事をする機会も多かったと考えられている。また、海外から運ばれた砂糖や香辛料、オランダ語が語源とされるポン酢など、出島を拠点に行われたポルトガルやオランダなどとの貿易によってもたらされた食材の影響も少なくない。ポルトガル由来の南蛮料理、南蛮菓子は卓袱料理の発展の下地となり、出島に居住するオランダ人と交流する機会のあった江戸幕府の役人を通してオランダの食文化が少しずつ長崎に広まっていった。このような異文化の交流の中から、卓袱料理の形態が生まれたと言われている」
という(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%93%E8%A2%B1%E6%96%99%E7%90%86)。さらに、
「1761年、長崎に入国していた清国人・呉成充が山西金右エ門を船に招いて中国式の料理でもてなしたという『八遷卓宴式記』の記述が、卓袱料理についての最古の記録である」
とあり、それが、
「文化・文政期(1804年 - 1829年)前後には江戸で一大ブームになる。ひとりひとりに膳が出されるのが普通であった当時の人々にとっては、一つのテーブルを囲んで大皿で食べるという中国式のスタイルは物珍しかったという。江戸古典落語に登場する『百川』は卓袱料理屋として創業したと伝えられる」
とある(仝上)。江戸や京都で流行した卓袱料理は次第に廃れ、後に長崎で復興して、1900年代に現在の卓袱料理の様式と献立が成立し、今日に至ることになる。
(「しっぽく料理」 たべもの語源辞典より)
日本人は。各自が一人前の膳に向って食事をしていたから、卓を囲んで食事をする風習に強い印象を受けたと思われる(たべもの語源辞典)。
「『しっぽくだい』とか『しっぽこだい』とよび、この食卓を用いて出す長崎料理のことを『しっぽく』といった。享保(1716-36)年中に長崎から上京して京都祇園の下河原に佐野屋嘉兵衛という者が長崎料理を始めた。これが食卓(しゅっぽく)料理店の初めである。このとき、大椀十二の食卓(しゅっぽく)を広めた。大椀は大平(おおひら)なので、蕎麦切を大平に盛って、上にかまぼこ・きのこ・野菜などをのせたものを『しっぽく』と呼ぶようになった」
とあり(仝上)、これが江戸に伝わったのは、宝暦・明和(1751-72)のころで、浮世小路の百川茂左衛門が京都に模してはじめた、とある。
ただ、江戸に伝わった「卓袱」は、「卓袱料理」ではなく、いわゆる「しっぽく」、「蕎麦切」の「しっぽく」ではあるまいか。
「卓袱料理のなかに、大盤に盛った線麺(そうめん、またはうどん)の上にいろいろな具をのせたものがあった。これを江戸のそば屋が真似して、そばを台に売り出したのが『しっぽくそば』ということになっている。」
とある(https://www.nichimen.or.jp/know/zatsugaku/47/)。どうやら、
「しっぽく料理そのものは享保(1716~36年)頃に京都に移植され、それが大坂をはじめとする畿内に広まったとされている。そして、京・大坂はいうまでもなく、うどん文化圏だ。とすれば、まず京坂のうどん屋がいち早くしっぽくうどんを売り出し、それが江戸に伝わってそばの種ものになった」
(讃岐のしっぽくうどん https://www.pref.kagawa.lg.jp/nousui/aji/3/195.htmより)
という流れらしい(仝上)。天保から嘉永(1830~54年)頃の風俗を記した『守貞謾稿』では、
「具は玉子焼き、かまぼこ、シイタケ、クワイなどとなっており、具の内容はだいたいこのへんに落ち着いていたようである。ただし、これらの具は京・大坂のうどん屋が出しているしっぽく(うどん)の解説であり、江戸のそば屋のしっぽくについては具体的な説明はなく、『京坂と同じ』としているだけである。」
とあり(https://www.nichimen.or.jp/know/zatsugaku/47/)、安永4年(1775)の『そば手引草』には、
「マツタケ、シイタケ、ヤマイモ、クワイ、麩、セリを具とする」
とある、とか(https://www.nichimen.or.jp/know/zatsugaku/47/)。
江戸の夜そば売りは「しっぽく」を売り物にし、
「しっぽくとはいっても、せいぜいチクワか麩をのせただけだったようだが、どの時期からのことだったのかははっきりしない。しかし文化(1804~18)頃になると、ネギと油揚げをのせたなんばん、油揚げがメインの信田、海苔をのせた花巻、そうめんを温めたにゅうめんなども売っていたようだ。天保・嘉永期(1830~54)の記録である『守貞謾稿』は、『一椀価十六文、他食を加へたる者は二十四文、三十二文等、也』と記している」
とある(https://www.nichimen.or.jp/know/zatsugaku/28/)。
つまり、「しっぽく」とは、
ソバ切、または、うどんなどのつゆに、マツタケ、シイタケ、カマボコ、野菜などを加えて煮た、
料理の名前。「しっぽく料理」は、
中国風の食事様式を取入れた長崎の名物料理。1つの卓を囲んで,大きな皿に盛った料理を,各自が小皿に取分けて食べる様式。中国から伝わった同形式の普茶料理が精進であるのに対し,魚介・肉類を用いる、
和華蘭料理のこと、である。両者が混同されているところがある。
この「しっぽく料理」は、
「かつては、大きな皿や鍋に料理を盛り、皆でつついて食べるものであったが、次第に種々の器に盛る者になっていった。これは、懐石料理の影響によるもの」
と考えられている(日本語源大辞典)。
なお、今日の通常の卓袱料理(コース料理)の順序は、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%93%E8%A2%B1%E6%96%99%E7%90%86
に詳しい。
参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95