2019年11月09日

蕎麦切


「蕎麦切」とは、

そば粉を練ったかたまりであるそばがきなどに対し、こんにち一般的な麺の形状のものであることをいう場合に用いることが多い、

とある(世界の料理がわかる辞典)。つまり、

麺にした蕎麦、

の意である。「そば」http://ppnetwork.seesaa.net/article/437123006.htmlで触れたが、

「食品としての『そば』は、そば粉に熱湯を加えてかき混ぜた『ソバガキ』が、江戸時代以前には一般的であった。江戸時代以降、現在のように細く切られるようになり、当初は『ソバギリ』と呼ばれた」

のである(語源由来辞典)。大言海の「そばきり」の説明が秀逸である。

「蕎麦粉を、水に捏ねて、延べて、細く切りたるもの。製法、饂飩に同じ。又、蕎麦粉のみにて、同様に製し、沸湯に煠(ゆ)でて、冷水にて洗ひ、再び蒸籠にて蒸すを、ムシソバキリと云ふ。これを、汁に浸し、或は、汁に煮て、食ふ。略して、ソバ」

と。そして、

河漏、

ともいう、と。

深大寺蕎麦.jpg

(深大寺蕎麦(じんだいじそば) 斎藤長秋(さいとうちょうしゅう)編・長谷川雪旦(はせがわせったん)画『江戸名所図会』(天保5年(1834)~天保7年(1836) https://www.library.metro.tokyo.jp/portals/0/edo/tokyo_library/modal/index.html?d=260より)


河漏(かろう)、

とは、

河漏麺(かろうめん)、

のことで、

「小麦粉またはそば粉をこね、箱形の容器の底板に小さい穴をあけたものから、煮たっている鍋の中へ押し出して作ったうどん様のもの」

を言い(精選版 日本国語大辞典)、

「中国の河漏という船着場の茶店で、たくさん売っていたところから」

いうらしい。日本では、蕎麦切のことをいった、とある(大言海)。

「中古、二百年以前の書、諸々の書物を詳に記せるにも、そば切の事、見えず、ここを以て見れば、近世、起こる事也、モロコシ、河漏津と云ふ、船著の湊の名物、茶店に多くこれを造る、よって、河漏と云ふ、是れ、日本のそば切の事也、江府のそば切の盛美には、諸国共に、及難し」

ともある(本朝世事談綺)。しかし、

「蕎麦、此云蘇泊、作麪、縷切者、云蘇泊幾利、即、蕎麦麪、一名河漏、一名河洛、是也。團入湯者、云蘇泊禰利、即、黒兒也、松岡元達食療正要、以黒兒為蘇泊禰利、以河漏蘇泊禰利者、誤矣」

とあり(秇苑日渉)、同一視したのは、誤解かもしれない。蕎麦は、

「蕎麦及ビ大小麦ヲ種樹シ」

と『続日本紀』の「備荒儲蓄の詔」にあるから、古くから食べられたが、

「蕎麦粉をこねて団子にして焼餅として食べるとか、やや進んで蕎麦かきとして食べた」

ものである(たべもの語源辞典)。「蕎麦切」の名は、

「粉を水でこねて、麺棒で薄くのばして、たたみ、小口から細長く切り、ほぐして熱湯の中に入れてゆで、笊ですくって冷水につける。そして水を切った」

という製法からつけられた。

「現在のような蕎麦が作られるようになったのは、慶長年間(1596-1615)といわれる」

が(たべもの語源辞典)、その発祥地には、

森川許六の編集した『風俗文選』宝永三年(1706)にある「蕎麦切の頌」から信濃の国、本山宿という説、

天野信景の『鹽尻』「蕎麦切は甲州よりはじまる。初め天目山へ参詣多かりし時、所民参詣の諸人に食を売るに、米麦の少なかのし故、そばをねりてだごとせし、其後うどむを学びて今のそば切とはなりしと信濃人のかたりし」から甲州発祥説、

の二つがある。大言海は、

「そば切は甲州より始る」

と鹽尻説を載せる。

明暦3年(1657)の振袖火事の後、復興のために大量の労働者が江戸に流入し、煮売り(振売り)が急増、その中から、夜中に屋台でそばを売り歩く夜そば売りも生まれた、というhttps://www.nichimen.or.jp/know/zatsugaku/28/

最初の頃の主力商品はそばではなくうどんで、貞享3年(1686)の町触には、「饂飩蕎麦切其外何ニ不寄、火を持ちあるき商売仕候儀一切無用ニ可仕候」とある。幕府は火事対策として夜の煮売りを禁止していたが、禁令を無視して夜中から明け方近くまで売り歩く煮売りが多かった、らしい(仝上)。「かる口」(貞享)には、

「一杯六文、かけ子なし、むしそば切」

とあり、「鹿の子ばなし」(元禄)には、

「むしそば切、一膳七文」

とある。これは、「夜鷹そば」とよばれたものもの値段に思われる。元文(1736~41)頃から、夜そば売りが「夜鷹そば」と呼ばれるようになる、とある。売り物は温かいぶっかけ専門だった、らしい(仝上)。天保・嘉永期(1830~54)になると、「一椀価十六文、他食を加へたる者は二十四文、三十二文等、也」(守貞謾稿)とある(仝上)。

参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:蕎麦切 河漏
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