2019年11月12日
しぐれ煮
「しぐれ煮」は、
時雨煮(しぐれに)、
と当てる。略して、
時雨、
と呼ぶことも多い。
志ぐれ煮、
と表記されることもある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%99%82%E9%9B%A8%E7%85%AE)、
生姜を加えた佃煮の一種、
「貝類のむきみにショウガ・サンショウなどの香味を加えて醤油・砂糖などで煮しめた料理」
とある(広辞苑)が、本来は、
「蛤のむき身に生姜を加え、佃煮にしたもの」
を指す(たべもの語源辞典)。今日は、生姜を入れた佃煮を、「時雨煮」と呼んでいるが。
元は、桑名・四日市地方の名物、
時雨蛤(しぐれはまぐり)、
が有名になって、時雨煮が世に知られた(仝上)。そういえば、桑名は江戸時代からハマグリが名物であり、
その手は桑名の焼きはまぐり、
という俗語が古くから知られていた。時雨蛤の命名は、芭蕉の高弟(で、芭蕉の遺書を代筆した)各務支考(かがみしこう)だとされる(語源由来辞典)。
「時雨とは、晩秋から初冬にかけて降ったり止んだりする雨、曇りがちの空模様を言う。通り雨の『過ぐる』が語原とも。しぐれは『し』と『くれ』に分けて、『くれ』は『暗し』と解釈し、『し』を『しばし』とか、『し』は風のことだと説いたりする。蛤の佃煮を食べていると蛤の味が醤油の辛さのうちに通り過ぎていく。この時雨煮は、簡単にのみこめるものではないから、降ったり止んだりする時雨のように口中で味の変化、過程を楽しめる。これが時雨煮とした理由と考えられる」
とする説(たべもの語源辞典)は、なかなか趣がある。ただ理屈ばっているのが気になるが、もし支考の命名というなら、あり得るかもしれない。
その他に、
時雨の降る時期がもっともハマグリがおいしくなる季節だから(語源由来辞典)、
江戸時代の料理書には、短時間で仕上げることがしぐれ煮作りの特徴として記されており、むき身をたまり醤油に入れて煮る調理法が、降ってすぐ止む時雨に似ているから(仝上)、
時雨のころの草木の枯れ色に仕上げたから(由来・語源辞典)、
等々諸説あるが、
口中で味が変化することから時雨にたとえた、
とする説に肩入れしたい。
同じ「時雨」を採った、
時雨饅頭、
というものもあるらしい。
「時雨饅頭は、小豆のこし餡をそぼろにして蒸したしぐれ羹で餡を包んだものである。そぼろからしぐれを思わせるからである」(たべもの語源辞典)
また、
時雨餅、
というものもあるらしい。
「小豆餡・みじん粉・砂糖を混ぜ合せてそぼろにして蒸しあげる。そぼろにしたところがしぐれと名づけるりゆうである」(仝上)
「しぐれ」と名づけるには、「そぼろ」になっているのがみそである。「そぼろ」は、
ばらばらで細かいこと、
を意味するが、そぼ降る雨というような、
雨がしとしと降るさま、
の意がある。しかし、「時雨煮」はそぼろではない。
「時雨は『しぐれ色』と称して、時雨で色づいた草木の色を取り上げることもある。だから、時雨煮とは、しぐれ色に煮上げたものと考える人もある。蛤とか牡蠣とか、時雨煮にするとき醤油で煮染めるとか、生姜を加えて佃煮にするとか、どんなものを煮ても味を濃くして口に入れたとき味が変わっていく、通り過ぎていく味を感ずるこの味つけが時雨煮の本領なのである」
という、味わいから来たとする説(たべもの語源辞典)に、やはり肩入れしよう。
参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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