2019年11月19日

奇を衒う


「奇を衒う」は、

一風変わったことをして見せる、
わざと普通と違っていることをして人の注意を引こうとする、

といった意味である。しかし、

奇を好んで奇なること能わず、

という諺もある。

突飛なことを望んで、結局平凡な結果に終わる、

ことはままある。

揚子雲之文、好奇而卒不能奇也、故思苦而詞難、善為文者、因事以奇出、江河之行、順下而已、至其触山赴谷風搏物激、然後盡天下之変、子雲惟好奇、故不能奇也

とある(後山詩話)。

事に因りて以て奇を出だす、江河の行くや、下るに順うのみ、其の山に触れ谷に赴き風搏ち物激するに至りて、然る後に、天下の変化を尽くす、

でなくてはならないようだ(故事ことわざの辞典)。

「てらう」の「衒」(漢音ゲン、呉音ケン)は、

「会意兼形声。玄(ゲン)は、細くて見えにくい糸をあらわす。よく見えない、あいまいである意を含む。衒は『行(おこなう)+音符玄』で、相手の目をごまかして、真相がよく見えないようにする行いのこと」

である(漢字源)。「てらう」意であり、

学問・才能や外見を、(あるようにごまかして)みせびらかす、

意となる。

和語「てらふ(う)」は、

照るを他動詞に活用す。韻會「衒、自矜(ほこる)也」、

と載る(大言海)。

自矜、

とはなかなかうまい言い方である。字鏡には、

「衒、亂也。天良波須、又賣也」

とある。古語大辞典に、「てらふ」の意味として、「みせびらかす」以外に、

買い手をつのる、
売る、

とある。四声伊呂波韻成に、

「売、ウル・ヒサグ・テラフ」

とある(古語大辞典)。売るために、己を誇示する、という含意が、「てらう」にある。しかし「照る」には、

四面に強い光を放つ、光る、
つやがある、
(光を受ける意で)うつむく、あおむく、
(面照ルの略)能楽で顔面が少し上向きになる、

等々の意はあるが、「売る」意はない。「てらう」のみが持つ意味のようである。

「衒う」の語源は、

「照る」の他動詞、

とあるが、岩波古語辞典、広辞苑は、

照らふの意、

とある。つまり、

光を当てる、

意であるが、「照る」には、いくつかの解釈がある。

人にテラス(照)義(名言通・和訓栞・大言海・国語の語根とその分類=大島正健)、
ひけらかし売る意で「照る」の他動詞形(日本語源=賀茂百樹)、
「てらふ」の意(小学館古語大辞典)、
テリ(光)ハヒの約。ハヒは活用語尾(日本古語大辞典=松岡静雄)、

どうも、元々の意は、

自矜、

と、自らを売り込むために、自分を光り輝かせる、という意味であったのではあるまいか、と疑問を感じたが、元々の「衒」という漢字自体が、

通じて眩に作る、

とあり(字源)、

誇衒、

という言い方で、見せびらかす意のほかに、

自ら己をとりもちて世に広告する、自ら行きて、てらひ賣る、

という意味がある。

估衒、

というように、

衒女不貞、衒士不信(越絶書)、

と、

自己の美貌学才などを自ら世に広告する者、

の意で使われる。「売る」という意味は、「てらふ」に、

衒う、

と当てて以後、「衒」の漢字の意味から出たのかもしれない。

参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
尚学図書編『故事ことわざの辞典』(小学館)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 04:58| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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