「手前味噌」は、
手味噌、
ともいう。
自分のことを誇ること、
自慢、
の意である。一般には、「手前味噌」の語源は、
自前の味噌、
自家製の味噌、
の意味とされる。「手前」は、
自分の手の前、
目の前、
の意で、そこから、目線で、
自分に近い方、
こちら、
あるいは、
自分の手元、
の意となり、
相手に対してこちらの立場、
の意となり、より近づいて、
自分の持ち物、
抱えている者、
の意となり、それをメタファに、
自分の腕前、
技倆、
の意となり、
点前、
と書いて、
茶道の所作、作法、
に特定されたりするが、点前は、手前とも当てるので、あるいは逆に、点前の用例から、腕前の意になったのかもしれない。さらに、内々の意から、
家計、
暮らし向き、
の意としても使われる。その意味では、「手前味噌」の「手前」は、
自前、
あるいは、
自家製、
といった意味であったとみられる。それは、
昔は味噌は各家庭で作られており、それぞれがおいしくなるようにと工夫を凝らしていました。
そして、おいしく出来た味噌を「手前(わたし/自家製)の味噌おいしくできたから食べてみて」と自慢し合うようになった、
とみる(https://eigobu.jp/magazine/temaemiso)のが自然である。戦前までは、多くそうであった。もう少し踏み込めば、
自家製の味噌を独特の味があると自慢する、
意とみる(デジタル大辞泉)、ことになる。
(赤味噌の一つ・江戸甘味噌(左)と淡色系の信州味噌(右) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%91%B3%E5%99%8Cより)
しかし、異説を、
「手前味噌という際の「手前」は、…『自家製』や『自前』、また一人称の『自分』のことである。 手前味噌の『味噌』は食品の味噌のことだが、現代でも『ポイント』の意味で『味噌』が使われるように、『味噌』には『趣向をこらしたところ』の意味がある。これは各家庭で味噌を作り、それぞれかよい味を出すために工夫を凝らしていたためで、近世には『趣向をこらしたところ』の意味から、人に自慢する様子にも『味噌』が使われた。『手前どもの味噌は…』と自家製の味噌を自慢することから、『手前味噌』という言葉が生じたとするのも間違いではないが、『味噌』という言葉自体に、『自慢』の意味が含まれることから、自分を自慢する言葉として『手前味噌』が使われるようになったと考える方がよいであろう」
と述べるものがある(語源由来辞典)。しかし、逆ではあるまいか、
手前味噌、
という言い方があったから、それをメタファに、
特色とする点、
得意に思っている箇所、
という意味でも使われるようになっただけなのではないか。ことわざに、
手前味噌で鹽が辛い、
というのがある。
自分で作った味噌なら、塩が辛くてもうまいと思うこと、
転じて、
自慢話ばかりするので聞いていて苦しいことのたとえ、
の意である。
「味噌」の「噌」(漢音ソウ、呉音ショウ、慣ソ)は、
会意兼形声。「口+音符曾(層をなして重なる)」
としかない(漢字源)が、別に、
(「噌」の字 https://okjiten.jp/kanji2400.htmlより)
「会意兼形声文字(口+曾)。『口』の象形(「言葉」の意味)と『蒸気を発する為の器具の上に、重ねたこしきから、蒸気が発散している』象形(「かさねる」、「かさなる」の意味)から、『言葉が積み重なる』、『やかましい』を意味する『噌』という漢字が成り立ちました」
とある(https://okjiten.jp/kanji2400.html)。
「味噌」は、わが国だけで使うようである。字源には、
大豆を煮て米又は麦の麹と鹽とを和して醸す、
と載り、
豉(シ)、
と同じとある。「豉」は、
豆と鹽とを和して作りし食品(幽尗)、味噌の類、
とある。「豉」は、
くき、
と訓ませ、新撰字鏡に、
「豆を原料とした食物。味噌・納豆(なっとう)の類とも、たまりの類ともいう」
とある(精選版 日本国語大辞典)が、「納豆」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/470884655.html)で触れたように、
「中国では、納豆を『鼓(し)』といった。これは後漢時代の文献に現れている。日本に伝わったのは古く平安時代の『和名鈔』に和名クキとしてある。鼓をクキとよんだ」
ので(日本語源大辞典)、
塩鼓、
つまり、
浜名納豆、
寺納豆、
大徳寺納豆、
の意味である。「味噌」については、項を改める。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:手前味噌