2019年11月23日

うつらうつら


「うつらうつら」とは、今日、

しきりと眠りを催し、浅く眠ったり覚めたりするさま、

の意で使う。

うとうと、
うつうつ、
うつっ、
とろとろ、
とろり、

等々の類語がある。しかし、「うつらうつら」は、万葉集では、

なでしこが、花取り持ちて、うつらうつら、見まくの欲しき、君にもあるかも(船王〈ふなのおおきみ〉)

と歌われ、そこでは、

まのあたりにはっきりと、

という意味である。「うつつ」http://ppnetwork.seesaa.net/article/415235904.htmlで触れたように、この「うつ」は、

現(うつつ)、

の意味である。「うつつ」は、ウツシ(顕)の語幹のウツを重ねた

「ウツ(現実)+ウツ(現実)」

の約で,目覚める意であった。しかし,『古今集』で「夢かうつつか」「うつつとも夢とも」等々と使われるうちに,夢と現の区別のつかない状態,

夢見心地

を指すようになった,とされる。そのため、「うつらうつら」の「うつ」を、

現、

の意とする説がある。つまり、

「うつ(現)し」などの「うつ」に接尾語「ら」の付いた「うつら」を重ねた語(デジタル大辞泉)、
あるいは、
「うつうつを約めて、うつつ(現)と云う。うつに助辞のらの添はりたる語」(大言海)、

で、本来の意は、

目の当たりにはっきり、

という意味であるが、「うつつ」の意味が、夢うつつの状態に変わったのに合わせて、

うとうと、
とろとろ、

の意になった、とするものである。しかし、別に、

「『うつ(空)』に接尾語『ら』の付いた『うつら』を重ねた語」(デジタル大辞泉)、
あるいは、
「『うつろな目』など『空虚』を意味する『うつ』」(語源由来辞典)、
あるいは、
「『ウツロウツロ(意識が空)』」

とする説がある。しかし、この意味は、はじめから、

浅い眠りにひきこまれるさま、

の意で使われており、あるいは、由来を別にするのかもしれない。半ば眠り半ば冷めているような状態の意で「うつらうつら」が使われ始めたのは、室町時代で、

「本来は、『うつらうつらと~する』のように、気の抜けた状態で何らかの行動をする時に用いた」

が(擬音語・擬態語辞典)、

「江戸時代になってから、特に睡眠と結びつき、現在のような意味で用いられるようになった」

とある(仝上)。こうみると、「うつらうつら」は、

現(うつつ)、

の意味のそれと、

空(うつ)、

の意味とは、別の由来と思われる。

「『目もうつらうつらに鏡に神の心をこそはみつれ』(はっきりと鏡に映るように神の本心を見た)』(土佐日記)のように、古くは全く逆の意味で使われていた。これは『現(うつつ)』を語源とする別の語と言われる」

とあるように(仝上)、「うつらうつら」の「うつ」は別であったが、「うつらうつら」の意味が、「うとうと」の意味に転じたとき、重なってしまったもののようである。

「うとうと」は、大言海は、

「うつらうつらのらを略したる、うつうつの轉なり(鴇(つき)、トキ)、ウを略してツラツラが、とろとろと轉じ、トロリと眠るなどと云ふ」

とする(大言海は、「とろとろ」も「うつらうつら」の略轉としている)が、これだと、「うつらうつら」が「現」由来なら辻褄が合うが、「空」由来なら、帳尻があわない。やはり、

「『うとうと』の『うと』は『う(っ)とり』の『うと』と同じく『うつ(空)』の変化した『うと』を重ねた語で、原義は『意識がなくなっている状態』を表す」

という説明(擬音語・擬態語辞典)が妥当に思える。「うとうと」が気の抜けた状態を意味したせいか、

「江戸時代には『うとうととありく春日野の里 座頭の坊三笠に杖をくくり付』(犬子集)のように、『歩行などがたどたどしいさま』の意を表す『うとうと』もあった。江戸時代、身体の機能が十分でない様子をいった『疎い』と関連する語と思われる」

との説明もある(仝上)。「疎(うと)し」は、

「空遠(うつとほ)しの約にもあるか」(大言海)、

なら「うつ(空)」と関わるが、

「ム(身)ト(外)シの転か。わが身が対象に対して疎遠な状態にある意」(岩波古語辞典)、

となると、「うとうと」の語源を改めて考えなくてはならない。しかし、

「『うと』は『うつろ』『うつほ』の『うつ』と同じく、空虚・からっぽを意味する」(日本語源大辞典)、

で落ち着きそうである。

日本語語感の辞典によると、「うとうと」は、

「『うつらうつら』よりさらに意識が薄れている状態」

らしい。

「『うとうと』は浅い眠りが持続する状態で、…『うつらうつら』は浅く眠ったり、覚めたりを繰り返す状態」

という(擬音語・擬態語辞典)。

ちなみに、「とろとろ」「とろり」は、「とろける」の「とろ」である。

「トロはとろく(蕩く)のトロと同じ」

であり(岩波古語辞典)、室町末期の日葡辞書には、

「溶け、または軟化するさま」

とあり、「とろとろ」「とろり」は、蕩けた状態をメタファに、

心の締まりがなくなる

気持ちよくうとうと眠る

避けに快く酔ったさま、

のような使い方をしたもののようである。ちなみに、「とろとろ」「とろり」は、

「眠気を催したり浅い眠りに入る様子を表すのに対して、『うとうと』は心地よい半眠りの様子」

とある(擬音語・擬態語辞典)。「とろとろ」は「うつらうつら」に近い。

参考文献;
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)
中村明『日本語語感の辞典』(岩波書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 05:01| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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