「きじやき」は、
雉焼、
雉子焼、
とも当てる。
雉焼豆腐の略、
雉が美味なので、それに似せた料理。カツオ・マクロなどの切身を醤油と味醂を合わせた汁に浸して焼く、
鴫焼に同じ、
と載る(広辞苑)。或いは、
マグロ・カツオなどの魚の切り身を、生姜(しようが)の汁を入れた醬油でつけ焼きにしたもの、
とも載る(大辞林)。鴫焼と同じと載る(広辞苑・大辞林)が、鴫焼(http://ppnetwork.seesaa.net/article/471514070.html?1573674929)で触れたように、山椒味噌をつけるか、醤油付焼にするので、どこかで、混同されたのかもしれないが、同じではない。「しぎやき」の項で、
「江戸での呼称であったことが《料理網目調味抄》(1730)などに見える。もともとはシギそのものを焼いた料理であったが,きじ焼がキジの焼物から豆腐,さらには魚の切身の焼物へと変化したのと同様,ナスの料理へと変わったものである。」
とある(世界大百科事典)ことには触れた。
「鴫焼は茄子の田楽、…醤油で味つけしたものは、どちらかといえば『きじ焼き(雉焼き)』に近いのではないでしょうか?」
ということ(https://oshiete.goo.ne.jp/qa/392518.html)からの、混同なのかもしれないが。
「雉焼」は、
「本来は、名前通り美味で知られる雉の肉を焼く料理であったが、徐々に変化して今では雉を使うことはほぼ無く、献立名だけが残った例である。鳥類で最も美味しいのが雉であるとされた為で、これも『あやかり料理』の一種といえよう。始めのうちは身の色が似ている『カツオ』の漬け焼きを雉焼きと呼んでいたが、徐々に対象が広がり、サバ、ブリ、マグロも範疇に。その後鶏肉、獣肉でも『雉焼き』の対象になって今に至る。つまり正確には『雉肉ふう・・・』である。赤身の魚は焼くと身がパサつくので、ごま油等油を塗り補助する。油で揚げずに油を塗って、生から焼いてもよい」
とある(https://temaeitamae.jp/top/t2/kj/6_G/010.html)のが正確のようである。
「焼きものの一つで、とり肉や、かつお、ぶり、さばなどの魚の切り身などの材料を、しょうゆ、みりん、酒で作った漬け汁に漬けて焼いたもののこと。室町時代から江戸時代まで、きじは鳥類の中では美味とされ、そのきじの肉を味わってみたいというところから生まれた擬似料理が始まりといわれる。材料は、一般では魚、精進料理では豆腐が使われた。」
ともある(https://www.lettuceclub.net/recipe/dictionary-cook/211/)。岩波古語辞典には、「きじやき」は、
「豆腐を小さく切り、塩または薄醤油を付けて焼き、燗酒をかけた料理。雉焼き料理」
としか載らない。ところが、江戸語大辞典は、
「まぐろ・鰹の切身を醤油に付けて焼くこと、またその物」
とのみ載る。江戸時代、既に、雉は使えなかったようである。大言海は、
「元は、雉の肉を鹽焼にしたるを用ゐき、その料理法の魚肉、豆腐に移りたるなり鴫焼、狸汁皆同じ」
と載せ、併せ、「きじざけ(雉酒)」の項で、
「雉の肉の鹽焼に、熱燗の酒を注ぎたるもの。元旦の供御に奉る」
とある。
足利時代の天文年間(1532~55)の『犬筑波集』という山崎宗鑑の蓮歌本に、精進の汁にまじって不精進の雉焼があったが、よくよくみたら豆腐だったという作がある(たべもの語源辞典)、という。寛永二十年(1642)の『料理物語』に、
「きじやきは、豆腐を小さく切って塩をつけて焼いたものだとある」
ともあり(仝上)、この時代、「きじやき」は、
豆腐料理、
であったようだ。
(雉焼田楽 豆腐に醤油をかけて焼いただけのシンプル http://www.tofu-ya.com/t-hyakuchin/th-002.htmより)
つまり、「雉子焼」とは、
雉子焼豆腐の略、
であった(仝上)。大言海は、
「豆腐を二寸四方、厚さ五六分に切りて焼き、薄醤油にて味を付け、酒を沸して注けたるもの。酒のみ飲みて、豆腐は食はすものと云ふ。正月の佳例に供したり」
と書く。
「きじの肉が白いので豆腐の白をこれにたとえた」
ともいわれる(世界の料理がわかる辞典)。しかし、
「他に鮪・鰹などの魚の切身を醤油でつけやきにしたものも、きじやきといった。料理名には『きじやきでんがく』などあり、豆腐に串をさして狐色に焼いて猪口に煮返しの醤油に摺柚子を添えて出した。ただの豆腐のきじやきは、塩をつけて焼いたところに熱い酒をかけて食べた」
とある(たべもの語源辞典)。
野鳥は古くから食用にしており、焼きキジのおいしさは昔から一般に知られていた。このキジの味に近い味をほかの材料を用いてつくり、それをきじ焼きと名づけた、ということらしい。
「現在は魚鳥肉を用いてしょうゆのつけ焼きにかじ焼きの名称をつけることが多く、色彩だけが似ている場合もある」
とある(日本大百科全書)。なお、「きじ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/459827203.html)については触れた。
参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95