いふ
「いふ(う)」は、
言う、
云う、
謂う、
曰う、
道う、
等々と当てる。「言」(漢音ゲン、呉音ゴン)は、
「会意。『辛(きれめをつける刃物)+口』で、口をふさいで、もぐもぐいうことを音(オン)・諳(アン)といい、はっきりかどめをつけて発音することを言という」
とある(漢字源)。漢字は、使い分けられていて、
「言」「謂」の二字は、義略々同じ。
「言」は、心に思ふ所を、口に述ぶるなり。言論・言説などと熟す、
「謂」は、報也、告也と註す。人に対して言ふなり。「子謂顔淵曰」の如し。又、人に対して言ふにあらずして、其の人を評して言ふにも用ふ。「子謂子賎」の如し。又、謂は、おもへらくとも訓む。心に思ふことは、必ず口にあらはるればなり、
「曰」「云」の二字は、義略々同じ。正字通にも「云與曰、音別義同、凡経史、曰通作云」とあり。但し、云は、意稍重し。云の字、文の終におきて誰氏云との如く結ぶことあり。これは誰が此の如く云へりとの意なり。かかる所に、曰の字を用ふることなし、
「道」は言と同じ、ただ言は多く実用にして重く、道は虚用にして軽し、孟子に、「道性善、言必称堯舜」また「非先王之法言、不敢道」の如し、
と明確である(字源)。
「言ふ」は、
必ずしも伝達を目的とはせず言葉や音声を発する表出作用をいう、
とあるが(広辞苑)、
「『言う』は『独り言を言う』『言うに言われない』のように、相手の有無にかかわらず言葉を口にする意で用いるほかに、『日本という国』『こういうようにやればうまく行くというわけだ』など引用的表現にまで及ぶ。」
と幅広く使われる。
「話す」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/448588987.html?1490905148)で、言葉を口に出す,という言い回しの,「言う」「話す」「申す」「述ぶ」「宣る」「告ぐ」についてで触れているが、岩波古語辞典は「言ふ」を、
「声を出し,言葉を口にする意。類義語カタリ(語)は,事件の成り行きを始めから終わりまで順序立てて話す意。ノリ(告)は,タブーに触れることを公然と口にすることで,占いの結果や名などについて用いる。ツグ(告)は,中に人を置いて言う語。マヲシ(申)は,支配者に向かって実情を打ち明ける意」
とし、「めし」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/471966862.html?1575318322)触れたように、「めし」の古名「いい(ひ)」(飯)は、
イフ(言ふ)と同根、
であり「言ふ」は、
口に出し、言葉にする意、
だけではなく、さらに、
食(い)ふ、
とも同根で、
口にする意でもある(仝上)。日本語源広辞典は、「言う」は,
「『イ(息)+プ(唇音)』です。イ+フゥ,イフ,イウとなった語」
とし,『日本語の深層』では,
「『イ』音の最初の動詞は『イ(生)ク』(現代語の『生きる』)です。名詞『イキ(息)』と同根(同じ語源)とされ,『イケ花』『イケ簀』などと姻戚関係があります。(中略)おそらく/i/音が,…自然界で現象が『モノ』として発現する瞬間に関わる大事な意味を持っているので,この『イ』を語頭にもつやまとことばがたくさんあるのでしょう。『イノチ(命=息の勢い)』『イノリ(斎告り)』などにも,また「い(言)ふ」にもかかわって意味を持ちます。」
とあり,あるいは,息ではなく,「言葉」が発語された瞬間の重要性をそこに込めているのかもしれない。
「いま」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/442558118.html)で触れたように,「イ」は,
「『イ』は口を横に引いて発音し,舌の位置がほかの四つの母音よりも相対的に前にくるので,一番鋭く響きますし,時間的にも口の緊張が長く続かない,自然に短い音なので,『イマ』という『瞬間』を表現できるのです。」
とある(仝上)。「いう」の「い」の意味は深い。
ちなみに、「息」は、
生くと同根(岩波古語辞典・日本釈名)、
イはイデ(出)、キはヒキ(引)から(和句解)、
イキ(生気)の義(言元梯・日本語原学=林甕臣)、
イは気息を意味する原語(日本古語大辞典=松岡静雄)、
と、生きると関わり、「生く」は、
息と同根(岩波古語辞典)
イキ(息)の活用(大言海・国語溯原=大矢徹・日本語源=賀茂百樹)、
イキク(息来)の義(日本語原学=林甕臣)、
等々、「息」「生き」とつながる。
食ふ、
言ふ、
イヒ(飯)、
とつながるのは当然のように思える。なお、
「いきる」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/465742517.html)、
「かたる」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/448623452.html)、
「はなす」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/448588987.html?1490905148)、
については、それぞれ触れた。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
熊倉千之『日本語の深層』(筑摩書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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