「三日」は、
さんじつ、
みか、
みっか、
等々と訓ませる。
みっか、
は、
みかの音便、
であり、本来は、
みか、
と訓んだらしい。万葉集に、
月たちて ただ三日(みか)づきの 眉ねかき け長く戀ひし 君にあへるかも」
とある「みかづき」の「みか」である。
「三日」は、「みっか」と訓むと、
日の数三つ。また、連続したその期間、
暦の月の三番目の日。また特に、正月三日、
漠然と、わずかな期間、
という意味だが、「みか」と訓むと、
三つの日数。みっか、
月の第三の日。みっか、
結婚後第三日目。三日(みか)の餅(もちい)(「三日の夜、御かはらけ取りて」(宇津保)、
誕生後第三日目。また、その日の祝い(「御うぶやしなひ、三日は例のただ、宮の御わたくし事にて」(源氏)、
と(大辞林・広辞苑)、特殊に、
三日(みか)の餅(もちい)、
産養(うぶやしない)の、第三夜(五夜、七夜、九夜と行われる)、
の意味で使われる。
さんじつ、
と訓ませると、
みっか。特に、正月の元日・2日・3日、
江戸時代の毎月の式日で、朔日(ついたち)、15日、28日の称。諸大名・旗本などは、この日麻裃(かみしも)で総登城した、
と(大辞林・広辞苑)、さらに特殊な意味である。
それにしても、「三日」というのは、特別な意味が持たされ、
わずか数日、
ながら、その数日で、
三日先さき知れば長者、
と先見の明の喩えにされ、
三日見ぬ間(ま)の桜、
は、変化の激しい喩えとされ、
三日にあげず、
は、
間をおかない意味で使われる。
漢字「三」(サン)の字は、
「指事。三本の横線で三を示す。また、参加の参と通じていて、いくつもまじること。また杉(サン)・衫(サン)などの音符彡(サン)の原形で、いくつも並んで紋様を成すの意味を含む」
とある(漢字源)。ちなみに、
「日本では、奈良時代にはサムと音訳し、三位(サンミ)・三線(サムセン)といった。三郎(サブロウ)のサブはその転音である」
とか(仝上)。
「三」には、「みっつ」という意味と「三番目」という意味の他に、
三三五五、
というように、
いくども、
たびたび、
再三
の意味があるが、
三易、
三戒、
三行、
三諫、
三鑑、
三儀、
三光、
三思、
等々三でまとめる言葉は無数にある(字源)。「三」で、すべてを言いつくしているという含意なのかもしれない。
「三日」には、
三日天下、
のように、短いという含意と、
三思、
のように、すべてという含意の他に、
三々九度、
というように使われるものがある。これは、
「三三九度は婚礼の中で、夫婦および両家の魂の共有・共通化をはかる儀式である。日本の共食信仰に基づく。また、古代中国の陰陽に由来する儀式で、陽の数である三や九が用いられた」
という意味があるらしい(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E4%B8%89%E4%B9%9D%E5%BA%A6)。この背景には、「懐石料理」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/471009134.html)で触れた、本膳料理の、
式三献(さんこん、さんごん)、
の、
中世以降の酒宴の礼法。一献・二献・三献と酒肴(しゅこう)の膳を三度変え、そのたびに大・中・小の杯で1杯ずつ繰り返し、9杯の酒をすすめるもの、
という作法がある(デジタル大辞泉)。ここでも、「三」である。
「易の基本観念は陰陽の二爻であり(爻とは効(なら)い交わるの意。天地の現象に効って互いに交わり、また他に変ずるの意)、これを重ねること三にして、乾、兌、離、震、巽、坎、艮、坤の八卦を成す。」
とあり(易経)、卦は爻と呼ばれる記号を三つ組み合わた三爻によりできる。たとえば、
「乾坤をもって父母とし、…一陽二陰の卦を男子、一陰二陽の卦を女子」
とする。八卦は、
「三爻を以って成るのは、陰陽の変によって天地人三才の道を包尽せんとす易の根本思想にのっとり、三才の道ここに備わらざるなきをしめしている」
とある(仝上)。「三」という数値は、ただ「三つ」ではなく、その意味で天地人の「すべて」をも含意している。
とすると、
三日相見(まみ)えざれぱ旧時の看を為すことなかれ、
とか、
士別れて三日まさに刮目して相俟つべし、
の三日とは、以後の長い年月すべてを含めている。たかが三日、されど三日である。
三日先知れば長者、
なのである。
参考文献;
高田真治・後藤基巳訳『易経』(岩波文庫)
尚学図書編『故事ことわざの辞典』(小学館)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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