2019年12月11日

湯葉


「湯葉」については、「豆腐」http://ppnetwork.seesaa.net/article/470815274.htmlに触れた時、

「豆腐」は、中国名をそのまま日本訓みしたもの。白壁に似ているので、女房詞で、

おかべ、

ともいう。豆腐をつくるときの皮は、老婆の皺に似ているので、

うば、

と言い、転じて、

ゆば(湯婆)、

と言い、豆腐の粕を、

きらず、

というのは、庖丁を用いなくても刻んだから、という。

おから、

である(たべもの語源辞典)、と書いた。しかし、

うば→ゆば、

の転訛とは限らないようだ。少し補足しておきたい。

「湯葉」は、言うまでもなく、

「豆乳を加熱した時、ラムスデン現象によって液面に形成される膜」

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%86%E3%81%B0、竹串などを使って引き上げる。精進料理の材料である。ラムスデン現象とは、

「牛乳を電子レンジや鍋で温めたりする事により表面に膜が張る現象である。これは成分中のタンパク質(β-ラクトグロブリン)と脂肪が表面近くの水分の蒸発により熱変性することによって起こる。豆乳でできる膜は湯葉と呼ぶ。」

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%A0%E3%82%B9%E3%83%87%E3%83%B3%E7%8F%BE%E8%B1%A1

「湯葉」は、

湯波、
油皮、
湯婆、


等々とも当てる。また、

イトヤキ、
豆腐皮(とうふかわ)、

とも呼ぶ(たべもの語源辞典)。中国では、

豆腐皮、
腐皮、

と書く(仝上)。中国では、

「シート状に干した「腐皮」(フーピー)と、棒状に絞ってから干した「腐竹」(フーチュー)が多く、日本の湯葉のような巻いた形状で市販されることはまれである。結んだ状態の「腐皮結」(フーピージエ)は中国でも作られている。」https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%86%E3%81%B0

はじめ、

うば、

と呼ばれ、

姥(うば)、

の字を当てたり、

豆腐の皮(うば)、

とも称した(たべもの語源辞典)。

液面の膜がゆばである.jpg

(液面の膜がゆばである https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%86%E3%81%B0より)


豆腐との最大の差は製造方法である。

「豆腐はにがり等の凝固剤を使用して、大豆の植物性蛋白質を凝固(塩析)させたものであり、ゆばは凝固剤を使用せず、加熱により大豆の蛋白質が熱凝固したものである。凝固剤を使用しないため、大豆から製造できる量は豆腐の約10分の1程度と少ない」

とある(仝上)。日本の「湯葉」は、

「約1200年前に最澄が中国から仏教・茶・ゆばを持ち帰ったのが初めといわれ、日本最初のゆばは、滋賀県大津市に位置する比叡山の天台宗総本山の延暦寺に伝わり、比叡山麓の坂本…に童歌『山の坊さん何食うて暮らす、ゆばの付け焼き、定心房』として唄われたことが歴史的な記録に残っている。」

とある(仝上)。

「日本で最初にゆばの伝わった比叡山麗の京都や近江、古社寺の多い大和、そして日光、身延といった古くからの門前町が産地として有名で、京都と大和、身延では『湯葉』、日光では『湯波』と表記する。」

薄膜を竹の串で掬い上げ、くしごと棚にかけるが、

「日光湯波は、細い棚にかけ、二枚に分かれた湯波の裏表をつけて一枚に仕上げる。京湯葉は、くしで上げて棚にかけるとき、幅のある棚に渡して一枚を二枚に分ける。だから、二枚に切ったときトイ(戸樋)の部分ができ、この湯葉のトイを京では売っている。日光には折れ目に残るトイの部分がない。日光湯波は厚みが京湯葉の倍はある」

という(たべもの語源辞典)。京湯葉は一枚なのに、日光の/湯波は二枚重ねということになる。身延では湯葉を何枚も重ねて固めた「角ゆば」も作られているhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%86%E3%81%B0、とか。

さて、「ゆば」の語源であるが、大言海(日本語源広辞典)は、

うば(豆腐皮)の転(ゆだる、うだる。ゆでる、うでると同趣)、

とするが、「豆腐皮」をなぜ「うば」と訓ませたかの説明がない(たべもの語源辞典)。もちろん、

姥(うば)の訛りであり、黄色く皺のある様が姥の面皮に似ていることからそう言われるようになった、

というのは単なる語呂合わせの俗説。ほかに、

豆腐の上物の略のトウフノウハをさらに略したウバの転か(骨董集・上方語源辞典=前田勇)、
湯張の義(語簏)、
上端の意味で「上(うは)」から変化して「うば」となり、『ゆば』になった(語源由来辞典)、

等々あるが、その製造プロセスから見れば、

ウハ→ウバ、

の転訛とみるのが自然であるようだ。山東京伝『骨董集』が、

「ユバの本名はウバである。(中略)『異制庭訓往来』に、豆腐上物とあるのが本名だろう。豆腐をつくるとき上に浮かぶ皮であるからといったので、それを略して豆腐のウハバといい、音便には文字を濁ってウバといった。ウバとユバとウとユと横にかよへば、甚だしい誤りではない」

といった(たべもの語源辞典)、とある。『うば』が『ゆば』と呼ばれるようになったのは18世紀の終わり頃という(語源由来辞典)。

参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:湯葉 湯波 油皮 湯婆
posted by Toshi at 05:08| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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