2019年12月30日

とみに


「とみに」は、

頓に、

と当てる。

急に、にわかに、
しきりに、

と、ちょっと違う意味を持つ。

古くは下に否定を伴う場合が多い、

とある(広辞苑)ので、例えば、古くは、

とみに物語のたまはで、

というような使い方をした。今日の「全然」が、

全然わからない、

と否定を伴ったのが、今日、

全然同感です、

と、

まったく、非常に、

という意味に変じたのと似ていのかもしれない。

岩波古語辞典には、

「トニニの転。多くの場合、下に打消しを伴って使われる。そのうち消された行動は、実は即座に成し遂げられることが予想・期待される」

とあり、それが、

その人人にはとみに知らせじ、有様にぞしたがはん(源氏)、

のように、「急に」の意であり、それが、

打消しの意を含む語を修飾して、

とみにはるけきわたりにて(足が遠のいて)、白雲ばかりありしかば(かげろふ)、

というように、「ばったり」「とんと」という意味で使われる、とある。

「しきりに」という意味は、ここにはない。

「頓」(トン)は、

「会意兼形声。屯(トン・チェン)は、草の芽が出ようとして。ずっしりと地中に根を張るさま。頓は『頁(あたま)+音符屯』で、ずしんと重く頭を地に付けること」

とある(漢字源)。頓首というように、ぬかずく意、整頓というように、止まる意、頓足というように、とんと急に動く意、頓死というように、急にという意、と様々な意味があるが、「急に」の意味で「頓に」と当てたのは、なかなかの慧眼である。

「とにに」の転とする「とにに」とは、

にわかに、

の意だが、

トニは「頓(トン)」の字音tonに母音iを添えてtoniとしたもの、

とある。つまり、どうも、漢語「頓」の字音を和語化したものということになる。とすると、「とみに」は、漢語由来、ということになる。

しかし、大言海は、「とみ」の転とする。「とみ」は、

疾、
頓、

と当て、

速(と)みの義、

であり、無(な)み、可(べ)み、と同じとする。しかし日本語源広辞典は、

字音ton+母音i、

とし、

「とみ(疾・急)+ミ」説は、疑問、

と否定している。

トミ(速・疾)の義(伊勢物語古意・古事記伝・国語の語根とその分類=大島正健・日本釈名)、

似たものに、

トシ(急)の義(言元梯)、

等々あるが、

「語源については『とし(疾)』の語幹に接尾語『み』の付いたものとする説もあるが、『土佐日記』に見られる『とに』などの形から、『頓』の字音の変化したものと考えられる」

とする(日本語源大辞典)のが大勢のようである。土佐日記には、

「風波(かぜなみ)、とにやむべくもあらず」

とある。

「とに」は「頓」の字音「とん」の「ん」を「に」と表記したもの、

とあり(大辞林)、

とん→とに→とみに、

と転訛したものとみられる。

「時間的に間がおけないさま。また、間をおかないさま。急。にわか。さっそく。『とみの』の形で連体修飾語として、また、『とみに』の形で副詞的に用いることが多く、現代ではもっぱら『とみに』の形で用いられる。」

とあり(精選版日本国語大辞典)、「とみに」の語感から、本来、

急に、

の意味が、否定を伴わなくなり、

とんと、

の意から、

国運がとみに衰える、
老眼がとみに衰える

というように、

しきりに、

の意味が派生したものかもしれない。

参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:頓に とみに
posted by Toshi at 05:28| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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