よもぎ
「よもぎ」は、
蓬、
艾、
と当てる。
もちぐさ、
繕草(つくろいぐさ)、
蓬蒿(ほうこう)、
ともいう。成長した葉は、灸の、
もぐさ、
とする(広辞苑)。「よもぎ」で漢字を引くと、
蓬、
艾、
蒿、
萩、
苹、
蕭、
薛、
が出る。「よもぎ」の漢字表記について、
「現在日本において、ヨモギは漢字で『蓬』と書くのが一般的だが、中国語でヨモギは『艾』あるいは『艾蒿』である。(中略)艾は日本で「もぐさ」と訓じる。もぐさはヨモギから作られるから、そのこと自体は何ら問題ではない。だが、蓬をヨモギとするのは誤りである、という説が現在では一般的のようだ。」
とある(http://square.umin.ac.jp/mayanagi/students/03/kamiya.htm)。
「艾」(ガイ、呉音ゲイ)は、
「会意兼形声。『艸+音符乂(ガイ、ゲ ハサミで刈り取る)』」
とあり、よもぎ、もぐさの意である(漢字源)。字源には、
よもぎ(醫草)、
と載る。「蒿」(コウ)は、
「会意兼形声。『艸+音符(高く伸びる、乾いて白い))』」
とあり(漢字源)、よもぎ、くさよもぎ、艾の一種、
とある(字源)。「蓬」(漢音ホウ、呉音ブ)は、
「会意兼形声。『艸+音符逢(△型にであう)』で、穂が三角形になった草」
とあり(漢字源)、
「よもぎ(艾)の一種」
とある(字源)。「萩」(漢音シュウ、呉音シュ)は、
「会意兼形声。『艸+音符秋』で、秋の草」
とあり、日本では「はぎ」に当てる。
よもぎ、くさよもぎ(蕭)の一種、
とある(字源)「蕭」(ショウ)は、
「会意兼形声。『艸+音符肅(ショウ 細く引き締まる)』」
とあり(漢字源)、
よもぎ(艾蒿)、
の意とある(字源)。「苹」(漢音ヘイ、呉音ビョウ)は、
「会意兼形声。平は、屮型のうきくさが水面に平らに浮かんだ姿を描いた象形文字。苹は『艸+音符平(ヘイ)』で、平らのもとの意味をあらわす」
とある(漢字源)。浮草のようであるが、
よもぎ、蒿の一種、
ともある(字源)。「薛」(漢音セツ、呉音セチ)は、
「会意。『艸+阜の字の上部(つみかさねる)+辛(刃物で切る)』。束ね重ねて着るよもぎをありらわす」
とあり(漢字源)、
かわらよもぎ(仝上)、
よもぎ(蒿)(字源)、
とあり、「よもぎ」のようである。どうやら、「艾」「蒿」「艾蒿」が、本来の「よもぎ」の漢字のようである。たべもの語源辞典には、こうある。
「蒿(かう)もヨモギで、艾の一種。苹(へい)またはビョウとよむが、これもヨモギで、蒿の一種、蕭(ショウ)もヨモギで、蒿と同じである。漢名には、蒿艾(コウガイ)、蕭艾(シュウガイ)、指艾(シガイ)、荻蒿(テキコウ)、氷台、夏台、福徳草、肚裏屏風など」
がある、と。しかし、
字類抄「蓬、よもぎ」
とあるように、「蓬」の字を当ててきた。
和名「よもぎ」は、古く、
させもぐさ、
つくろひぐさ、
えもぎ、
させも、
等々といった(たべもの語源辞典)。「させもぐさ」は、
さしもぐさ(指焼草・指艾)の転(岩波古語辞典)、
サセモグサと云ふは、音轉なり(現身、うつせみ)、サセモとのみ云ふは、下略なり(菰筵、薦)(大言海)、
である。「さしもぐさ」は、
「夫木抄『指燃草』、注燃草の義、注(さ)すとは、点火(ひつ)くること(灸をすうるを、灸をさすと云ふ…)、モは燃(も)すの語根、燈(とも)すの、カモなり、此のモグサは、即ち艾(もぐさ)にて、灸治する料とす。」
とある(大言海)。
大言海は、「よもぎ」を、
艾、
蓬、
の当てる漢字で二項別に立てている。「よもぎ(艾)」は、
「善燃草(よもぎ)の義」
とし、
「草の名。山野に自生す。茎、直立して白く、高さ四五尺、葉は分かれて五尖をなし、面、深緑にして、背に白毛あり。若葉は餅に和して食ふべし(餅草の名もあり)。秋、葉の間に穂を出して、細花を開く。實、累々として枝に盈つ。草の背の白毛を採りて、艾(もぐさ)に製し、又印肉を作る料ともす。やきくさ。やいぐさ。倭名抄『蓬、一名蓽、艾也。與毛木』、本草和名『艾葉、一名醫草、與毛岐』」
と記す。ほぼ、「よもぎ」の意である。しかし、「よもぎ(蓬)」の項では、
「葉は、柳に似て、微毛あり、故に、ヤナギヨモギの名もあり。夏の初、茎を出すこと一二尺、茎の梢に、枝を分かちて、十數の花、集まりつく。形、キツネアザミの花に似て、小さくして淡黄なり。後に絮(わた)となりた飛ぶ。ウタヨモギ。字類抄『蓬、ヨモキ』」
とする。「もぐさ」にする「よもぎ(艾)」と「くさもち」にする「よもぎ(蓬)」とは別、という意味なのだろうか。
日本では一般的な「よもぎ」は、
ヨモギArtemisia princes Pamp.〔分布〕本州・四国・九州・小笠原・朝鮮
ニシヨモギArtemisia indica Willd.〔分布〕本州(関東地方以西)・九州・琉球・台湾・中国・東南アジア・印度
オオヨモギArtemisia montana (Nakai) Pamp.〔分布〕本州(近畿地方以北)・北海道・樺太・南千島
の三種という(http://square.umin.ac.jp/mayanagi/students/03/kamiya.htm)。日本だけでも30種あるが、この3種は植物学の分類上かなり近縁の種で、
「日本全国で一般に『ヨモギ』と呼ばれている植物はこの3種のうちいずれかということになろう。」
というし、
「別名は、春に若芽を摘んで餅に入れることからモチグサ(餅草)とよく呼ばれていて、また葉裏の毛を集めて灸に用いることから、ヤイトグサの別名でも呼ばれている。ほかに、地方によりエモギ、サシモグサ(さしも草)、サセモグサ、サセモ、タレハグサ(垂れ葉草)、モグサ、ヤキクサ(焼き草)、ヤイグサ(焼い草)の方言名がある」
とあり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A8%E3%83%A2%E3%82%AE)、一般には、区別しているようには見えない。しかし、大言海が、是非は判断できないが、「くさもち」につかう「よもぎ」と「もぐさ」の「よもぎ」を分けているのには意味がある。
「蓬(よもぎ)は、葉は柳に似て微毛があるのでヤナギヨモギと呼ばれる。淡黄の小さい花をつけ、後に絮(わた)になって飛ぶ。ウタヨモギともいい、艾(よもぎ)とは違った植物である」
とある(たべもの語源辞典)。大言海の見識である。
さて和語「よもぎ」の語源であるが、大言海が、「よもぎ(艾)」に、
善燃草(よもぎ)の義、
としたように、
ヨ(弥)+モ(萌)+キ(草)(日本語源広辞典)
か、あるいは、
ヨクモエクサ(佳萌草)の義(日本語原学=林甕臣)、
弥茂く生える草の意(日本語源=賀茂百樹)、
ヨモギ(常世萌)の義(柴門和語類集)、
の二つが多い。語源由来辞典は、
「よもぎの『よ』は『ますます』を意味する『いや・いよ(弥)』、もしくは『よく(善)』の意味。『も』は『萌える』か『燃える』の意味で、『ぎ(き)』は茎のある立ち草の意味。つまりよもぎの語源は『いよいよ萌え茂った草』か、『よく燃える草』の意味からである」
とまとめている。この他に、
よく繁殖し四方に広がることから「四方草」と書いてヨモギと読ませる、
という説(よく繁殖し四方に広がることから「四方草」と書いてヨモギと読ませる)もあるが、「萌」「燃」には、盛んに生えるという意味がある。岩波古語辞典には、
「平安中期以後には、『むぐら』『あさぢ』などと共に、代表的な雑草として、荒廃した家の描写に使われることが多い」
とあるが、万葉集の家持の長歌には、
玉桙(たまほこ)の道に出で立ち、岩根(いわね)踏み、山越え、野行き、都辺(みやこへ)に参ゐし我が背を、あらたまの年行き返り、月重ね、見ぬ日さまねみ、恋ふるそら、安くしあらねば、霍公鳥(ほととぎす)、来鳴く五月のあやめぐさ、余母疑(よもぎ)かづらき、酒みづき、遊びなぐれど、射水川(いみづかは)、雪消(げ)溢(はふ)りて、行く水の、いや増しにのみ、…
とあり、必ずしも、荒んだという意味はない。その意味で、「よく茂る」という意味は悪い意味ではない。しかし、古名、
さしもぐさ(指燃草)、
が、艾(もぐさ)に火をつける意味だとすると、
ヨリモヤシキ(捻燃生)の義、灸に用いるところから。生は草の意(名言通)、
という、「もぐさ」と絡める説も無視できない気がする。
「モグサはモエグサ(燃草)の意である。サシモグサのサシは灸をすえるの意である」
とある(たべもの語源辞典)。「よもぎ」の名も、古名「さしもぐさ」の由来との連続性を採りたい。
「よもぎ」は、
餅草、
ともいう。草餅の材料にするからである。しかし、昔は、ハハコグサを用いた。
平安朝の『文徳実録』(八七九年)に、
野有草、俗名母子草、二月始生、茎葉白脆、毎属三月三日、婦女採之、蒸擣以為餻、伝為歳事。
とあり(http://square.umin.ac.jp/mayanagi/students/03/kamiya.htm)、ハハコグサを搗き入れた餅で、
母子餅、
と呼んだ。
ははこぐさ、
は、
ホウコグサ、
モチヨモギ、
といい、漢名は鼠麹草(そきくそう)、春の七草のひとつで御行(ごぎょう、おぎょう)である。
参考文献;
神谷正太「東アジアにおけるヨモギ利用文化の研究」(http://square.umin.ac.jp/mayanagi/students/03/kamiya.htm)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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