2020年01月17日

ちょろまかす


「ちょろまかす」は、

①一時のがれのうそを言って、その場をごまかす。言いまぎらわしたり、だましたりする(浮世草子・好色盛衰記(1688)「ちょろまかすといふ時花(はやり)言葉も是おかし。西南ふたつの色所より、役者・末社のいひ出して、一座の興にもなるぞかし。罪にならざる当座の偽を、まぎらかすといへる替詞と聞えたり」)、
②人の目をごまかして物を盗む。かすめ取る。ごまかし取る(浮世草子・西鶴置土産(1693)「むかし残りてさもしき心にて紙一枚、ちょろまかすといふ事なし」)、
③女をだまして肉体関係を結ぶ。女をたらす。女を誘惑する(浄瑠璃・猿丸太夫鹿巻毫(1736)「沢といふ妼、大宮司のねそ殿がいつの間にやらちょろまかし、腹がれこさ」)、

という意味がある、とされる(精選版日本国語大辞典)。いずれも江戸期の言葉らしいが、今日③の意味は使われていないようだ。江戸語大辞典には載るが、広辞苑、大辞林、デジタル大辞泉等々には、①②の意味しか載らないし、大言海にも、載らない。栄花咄(貞享)に、

「ちョろまかすと云ふ流行詞、云々、罪にならざる当座の偽を、まぎらかすといへる替詞と聞えたり」

とある(大言海)。江戸時代の流行語であるらしい。

「ちょろまかす」の語源については、ネット上は、二説が溢れている。たとえば、

「一つ目は「好色一代男」で知られる江戸時代の大坂の浮世草子・人形浄瑠璃作者、また俳諧師であった井原西鶴の著作『好色盛衰記』に『ちょろまかす』が当時の流行言葉として紹介されているところから。その由来は『ちょろりと誤魔化す事』と書かれているとか。
もう一つの説は、同じ江戸時代の伝馬船、…『ちょき船』と呼ばれていたそうですが、それよりも小型で速い船を『ちょろ』と呼んでいた。『ちょろ』を負かすほど素早く動く様を『ちょろ負かす』と言い表し、さらにそこから『素早く動いて相手に悟られない』という意味になった」https://www.yuraimemo.com/4381/

「1688(元禄元)年に書かれた井原西鶴の『好色盛衰記』の中には《ちょろまかすと言ふ流行言葉も是れおかし》と、はっきりと流行語だと書かれていたりします。ここで井原西鶴はこの言葉の語源を『ちょろまかすとは、チョロリとごまかす事』と書いています。
別の説も存在します。江戸時代に荷物などを運搬する船のことを《伝馬船》と呼んでいて、それの小型の船の事を《猪牙》船と呼んでいたのです。この猪牙船は一人乗りでその軽量なことからかなりのスピードが出せたのです。しかし、それより小型でスピードの出る船と言うのも存在していて、それの事を《ちょろ》と呼んでいたらしいのです。そんなムチャクチャ早いスピードを出す《ちょろ》を負かしてしまうほど素早く動くことを《ちょろ負かす》と言うようになり、次第に素早い動きで相手に悟られないように行動することを《ちょろまかす》と言うようになったという説があります。」http://www.tisen.jp/tisenwiki/?%A4%C1%A4%E7%A4%ED%A4%DE%A4%AB%A4%B9

「(1)『ちょろい』と、『ごまかす』『だまかす』などの『まかす』が組み合わさった造語という説があります。本来、『ごまかす』『だまかす』から『まかす』だけを取り出すのは文法的には間違いなのですが、…要するに、〈ちょろちょろっとごまかす〉〈ちょろっとだます〉という意味合いのことばをつくったということです。
(2)江戸時代に、荷物の運送に使われた『猪牙船(ちょきぶね)』というかなり小さな船がありました。小回りがきいて、船足も速い船で、『ちょろちょろ』と走り回っていたので『ちょろ』とも呼ばれたそうです。その『ちょろ船』よりももっと素早くという意味合いで〈ちょろを負かす〉くらいに〈すばやくごまかす〉ということで『ちょろまかす』という言い方ができた、という説です。」https://mobility-8074.at.webry.info/201605/article_1.html

西鶴の「ちょろりと誤魔化す事」というのはともかく、「ちょろ船」という説は、ちょっと信じがたい。「ちょろ船」は、

ちょろ、

ともいい、

船脚の早い猪牙舟の呼称、東海地方以西でいう、

とあり(広辞苑)、猪牙船と同じ意である。大言海は、「猪牙舟」の項で、

「ちョきは櫓の音の形容。…ちョろと云ふ小舟もこれならむと云ふ。或は云ふ、長吉と云ふ者、作り始む、故に長吉船とも云へりと。或は、形、猪牙に似たれば云ふと云ふは、皆、付会なり、猪牙と云ふ湯桶訓あるべくもあらず」

とする。

ちょきぶね.bmp

(猪牙舟 精選版日本国語大辞典より)

中央に描かれた屋根のないのが猪牙舟.jpg

浮世絵『江戸名所草木尽くし 首尾の松』  中央が猪牙舟。右は屋根船(屋形船の小型版) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8C%AA%E7%89%99%E8%88%9Fより)


猪牙舟は、

「往時、専ら江戸、山谷通(さんやがよひ)に用ゐたり。進むこと至りてはやければなり。されど甚だしく動揺せり。櫓を二挺立てて漕ぎたるは更に早し、因りて舟を二挺立てとも云ひ、此舟に屋根を付けたたるを、キリギリスと云ひき。舟揺れて二挺の櫓の、キリキリと鳴る故なり」

と説明する(大言海)。「山谷通」とは、「江戸初期に荒川の氾濫を防ぐため、箕輪(三ノ輪)から大川(隅田川)への出入口である今戸まで造られた」山谷堀(さんやぼり)を、

「江戸時代には、新吉原遊郭への水上路として、隅田川から遊郭入口の大門近くまで猪牙舟が遊客を乗せて行き来し、吉原通い」

を言ったhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E8%B0%B7%E5%A0%80

となると、西鶴が紹介した「ちょろりと誤魔化す事」が有力となる。

擬態語チョロ+ごまかす(日本語源広辞典)、
擬態語チョロ+接尾語めかす、
擬態語チョロ+まぎらかす(上方語源辞典=前田勇)、
形容詞チョロイを動詞化したもの。チョロイは擬態語チョロチョロから(すらんぐ=暉峻康隆)、

と、その語源説には、いくつかある。

「擬態語チョロ+接尾語まかす」について、

「擬態語『ちょろ』に接尾語『めかす』が付いたのなら『ちょろめかす』となるはずであるが、中近世には、だますを意味する語として『まぎらかす』『たるまかす』『だまかす』『ごまかす』など『…かす』『…まかす』の形をとるものが多く、恐らく、この形への類推によって『ちょろまかす』の形が生じたものと思われる」

と、「まかす」からの変化を説明する説もある(日本語源大辞典、精選版日本国語大辞典)。

「『まかす』は、『ごまかす』や『だまかす』など『だます』という意味あいのある言葉との連想で加えられた接尾語ではないかとされている。」

という説明が的を射ているのかもしれない(笑える国語辞典)。

「ちょろ」は、

ちょろちょろ、
ちょろり、
ちょろと、

等々、もとは、

液体が少し流れ出る、

様をいう擬態のように思われる。それが、

小動物などが素早く小刻みに動く様子、
素早く行動する様子、

の意味になる。「ちょろり」には、ただ素早いだけではなく、

特に、相手に気づかれないうちに、相手からとがめられる前に、ほんのちょっとの間をうまく利用はするニュアンスを伴うことがある、

とある(擬音語・擬態語辞典)。これが、「ちょろい」「ちょろまかす」に共通するようである。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:ちょろまかす
posted by Toshi at 05:36| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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