「ちょっかい」は、
ちょっかいをかける、
ちょっかいを出す、
といった言い回しをする。
曲がって委縮した手、
という意味が、室町末期の日葡辞書に載る(精選版日本国語大辞典には「曲がり縮んだ手。また、指が曲がって動かない手」(日葡辞書)と載る)。で、前後は不明ながら、
相手の腕や手をののしって言う語、
という意味があり、
猫などが前の片足で物を掻き寄せること、
という意味があり、その状態表現をメタファに、
横合いから干渉すること、
という意味がある(広辞苑)。
相手の腕や手をののしって言う語、
という意味は、
手、特に手首から先の部分を卑しめていう語、
ともある(大辞林)。意味の先後がよくわからないが、江戸語大辞典には、
手、腕、
手首から先、手首、転じて三味線の撥を持つ手、撥はばき、
ちょっかいを出すの略、
とあるので、どうやら、元々手、腕を指したものらしい。用例としては、
「ちょっかいの廻る長(だけ)」(天明三年・絵本見立仮譬尽)、
が載る(仝上)。ただ、日葡辞書の掲載から見ると、もともと、
曲がり縮んだ手。また、指が曲がって動かない手、
を指していたものかもしれない。
「己このちょっかいにて色々の悪戯をまつり」(1702頃浄瑠璃・信田小太郎)
「わが-を俺が懐中ふところへつつ込む間には」(歌舞伎・男伊達初買曽我)
等々の用例(精選版日本国語大辞典、大辞林)を見ると、ニュートラルな言葉ではなく、
腕、手、手先を卑しめていう語、であるのだから。
更に価値表現を加えると、
手首から先、
の意から転じて、
撥さばき、
の意となる。
「ちょっかいが動いてくると猫で張り 木賀」(文化三年・柳多留)
「能廻るちょっかいならば土佐ぶしをさあひき給へ猫の皮にて」(狂歌・若葉集(1783))
等々という用例がある(精選版日本国語大辞典、江戸語大辞典)が、それと、
「ちょっかいにたつ名ぞ惜(をし)き猫の夢〈友吉〉」(俳諧・洛陽集(1680))
という用例の、
猫が前の片足で物をかきよせるような動作をする、
意とは、「ちょっかい」の意味に、揶揄のニュアンスが加わっている。猫の動作を指す意味は、後のことかもしれない。その猫の動作から、
ちょっかいを出す、
という言葉遣いが派生したものと想像する。
(水槽の金魚を狙うネコ https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8D%E3%82%B3より)
「ちょっかいを出す」は、
脇から干渉や手出しをする、
おせっかいをする、
意があり、その派生で、
たわむれに異性に手を出す。特に、男がたわむれ心で女性に言い寄る、
意を持つ。「ちょっかいをかける」もほぼ同義である。
「未だ爪を隠さぬ新造猫より化けそうな年増猫まで、みなちょっかいを出して客をひきかかんと欲す」(洒落本・猫謝羅子)、
では、猫の振る舞いと異性へのそれとが意味が重なり合っているように思える。
「ちょっかい」は、何から出て来たのか。江戸語大辞典は、
ちょっ掻きのイ音便かとも、手出しの訛りかとも、
と二説挙げている。日本語源広辞典は、
ちょっかき(猫が手を出してちょっと掻く)、
を取る。しかし、「ちょっかい」のもつ、日葡辞書の意味、
曲がり縮んだ手。また、指が曲がって動かない手、
は、説明できない。大言海は、
一能掻(イチヨクカイ)の義か、
とするか、少し苦しくないか。
猫の仕草から、「ちょっかい」が出た、とすると、
ちょっかき→ちょっかい、
の転訛は、確かに説明できる。しかし、それより前、日葡辞書にのせる「ちょっかい」の意味の説明がつかない。
三味線は、成立は15世紀から16世紀にかけてとされ、戦国時代に琉球(現在の沖縄県)から伝来した。
「琉球貿易により堺に宮廷音楽や三線がもたらされ、短期間の内に三味線へと改良された。現存する豊臣秀吉が淀殿のために作らせた三味線『淀』は、華奢なもののすでに基本的に現在の三味線とほとんど変わらない形状をしている。伝来楽器としての三線は当道座の盲人音楽家によって手が加えられたとされ、三線が義爪を使って弾奏していたのを改め彼らが専門としていた『平曲(平家琵琶)』の撥を援用したのもそのあらわれである。彼らは琵琶の音色の持つ渋さや重厚感、劇的表現力などを、どちらかといえば軽妙な音色を持つ三味線に加えるために様々な工夫を施したと思われる。」
とある。ここからは憶説だが、
(喜多川歌麿「江戸の花 娘浄瑠璃」享和3年(1803年)) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E5%91%B3%E7%B7%9Aより)
指が曲がって動かない手、
は、撥さばきの手つきと重ならなくもない。
腕、手、手先を卑しめていう語、
が、転じて、
撥さばき、
の意となる経路と、
猫の仕草、
が転じて、
手出しする、
意となる流れとは、別経路なのかもしれない。
「古くは、腕や手、特に手先を卑しめていう言葉として『ちょっかい』が用いられており、1603年の『日葡辞書』には、『歪み曲がってちぢかんだ手』とある」
意味と、
「ネコが物を掻き寄せる動きから、余計な手出しをすることを『ちょっきかい』と言うようになり、口を出すなど側から干渉する意味、さらに異性に言い寄る意味で使われるようになった」
意味の広がり(語源由来辞典)とは、乖離がありすぎる気がする。「撥さばき」の意では、今日ほとんど使われないが。
参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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