2020年01月24日
おこし
「おこし」は、
粔籹、
興し、
と当てる。
糯米や粟などを蒸した後、乾かして炒ったものを水飴と砂糖で固めた菓子、
である(広辞苑)。胡麻・豆・胡桃・落花生・海苔などを加える、とある(仝上)。しかし、現在、
関東系の糒 (ほしいい) を水飴と砂糖で練り,箱に入れてさまし拍子木形に切ったもの、
と,
関西系の糒をひいた小米糒を飴と砂糖で練り,岩のように固くしたもの、
の二種がある(ブリタニカ国際大百科事典)、ともある。糒(ほしいい)とは、
米を一度煮たり蒸したうえで、天日に干した飯。乾(干)飯とも書き、「ほしい」「かれい(い)」、
である(日本大百科全書)。
米や麦を煎って膨らませることを、
おこす、
という、とある(たべもの語源辞典)。これが謂れのようである。大言海も、「興米」と当て、
オコシは、炒りて脹れおこしならむ、
とする。ただ、雍州(ようしゆう)府志(1684)は,
「炒った米を水あめで固く練ったところから引きおこして,板状,あるいは球状にするのでこの名があるとし,京都では二口屋(ふたくちや),虎屋のものがよい」
といっている(世界大百科事典)、とする説もある。
「おこし」は、古く、
おこしごめ、
と呼び,
興米、
と書いた(仝上)。
遣唐使によって輸入された唐菓子が原形、
とされている。『和名類聚抄』(和名抄)が、
粔籹(きよじよ)、
の字を当て、「おこしごめ」と訓ませ(日本大百科全書)、
「は蜜(みつ)をもって米に和し、煎(い)りて作る」
と製法を残しているが、糯米(もちごめ)を蒸し、乾燥させてから、炒(い)っておこし種をつくり、水飴(みずあめ)と砂糖で固めるという今日の製法とさして変わらない、古い原型を残している。
煎って膨らむことから、上述のように、「興米」の漢字も用いられ、『延喜式』には神前に供えられた記録も残されており、賞味する貴族がこぼれた破片を払う姿から、
粰𥹷
とも呼ばれた、とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8A%E3%81%93%E3%81%97)。
ただ、本来の粔籹は、李時珍の《本草綱目》によると、いまの「かりん糖」に近いものだったようである(世界大百科事典)、とある。
「おこし」は、長く、
おこしごめ、
と言われてきた。鎌倉時代中期の古今著聞集には、
「法性寺(ほっしょうじ)殿(関白藤原忠通(ただみち))、元三(がんざん)(正月1日)に、皇嘉門院(こうかもんいん)(藤原聖子。忠通の長女で崇徳(すとく)后)へまひらせ給(たまい)たりけるに、御くだ物(菓子)をまひらせられたりけるに、をこしごめをとらせ給て、まいるよしして、御口のほどにあてて、にぎりくだかせ給たりければ、御うへのきぬ(正装の上着)のうへに、ばらばらとちりかかりけるを、うちはらはせ給たりける、いみじくなん侍(はべり)ける」
とある。まさに「粰𥹷」である。南北朝時代末期から室町時代前期の成立の『庭訓往来』も、室町時代から近世初期の成立の『猫の草子』も、江戸時代初期の料理書『料理物語』も「おこし米」を使っている(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8A%E3%81%93%E3%81%97#cite_note-tousyouzi-3)。
江戸時代初期には庶民の菓子となっているが、『料理物語』に、
「よくいにん(ハトムギの種子)をよく乾かし、引割米のごとくにし」
とあるように、素材もハトムギやアワなどの安価なものが使われた。
雑兵はおこしのような飯を食い(宝暦10年(1760)「川柳評万句合」)
の句がある。このおこしは、ばらつきやすい、いわゆる、
田舎おこし、
の類で、これに対し、大坂の「津の清(つのせい)」が
粟(あわ)おこし、
を改良した
岩おこし、
は、火加減に妙を得た堅固な歯ざわりで評判をとった。今日では大阪の岩おこしをはじめ、東京・浅草の雷おこし、福岡の博多(はかた)おこしなど、名物おこしの数は多い。そして、ほとんどのおこしが適度の堅さを保つ菓子となった(日本大百科全書)、とある。
江戸で「おこし」を売り始めたのは、美濃国地知の知行所に五十石を領していた徳之山五兵衛だという(たべもの語源辞典)。
参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください