「おのれ」は、「二人称」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/442523895.html)で触れたように、
オノ(己)+レ(接尾語)
で,「レ」は,「ワレ(我)」や「カレ(彼)」の「それ(其れ)」の「レ」と同じである(大言海、岩波古語辞典)。
「おのれ」は、名詞で、
自分自身,
を指すが,代名詞に転ずると,
一人称、
で、自分自身を指すが、卑下していうことが多い、
とある(岩波古語辞典)。さらに、二人称に転じ、
目下の相手、または相手をののしっていう、
意になる。室町末期の日葡辞書には、
ヲノレメ、
と載る。大言海には、
汝のおのれと云ふより転じて、対称の代名詞にも用ゐる、
とある。さらに副詞に転じ、
ひとりでに、自然に、おのずから、
の意となる(これは、「おのずからとみずから」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/415685379.html)で触れた)。
更に転じて、
おのれ、なんのこれしき、
とか、
おのれ、よくも騙したな、
というように、
物事に対してみずから励ますときや、怒りや悔しさを表す感嘆詞としても使われる。
「おのれ」を、
オノ+レ、
とする、この「オノ(己)」は、また、「おのれ」と同様、一人称の、
であり、二人称の、
おまえ、
の意であり、
驚きあやしんでいう感嘆詞、
としても使う。万葉集に、
針袋取り上げ前に置きかへさばおのともおのや裏も継ぎたり
とも詠われる(岩波古語辞典)。この「おの」は、
アナ(己)の母音交替形、
とし、
感嘆詞アナの母音交替形、
とする説(岩波古語辞典)は、「アナ(己)」は、「あながち」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/430713882.html)で触れたように、
アナ(オノレの変化)+勝ち、
であり、
オノ(己)の母音交替形。アナガチのアナに同じ。日本書紀神代巻に「大己貴」を「於褒婀娜武智(おほあなむち)」と訓注しており、「己」をアナと訓む。母音アが脱落するとナ(汝)になる、
とし、同じ二人称「うぬ」は、
オノの轉、
とする。しかし、大言海は、「うぬ」を、
オノレの略轉、
とする(日本語の語源も同じ)。「うぬ」は、「おのれ」「おの」とほぼ同じ意で、
自分自身、
二人称。相手をののしっていう語、
相手の言葉や態度に憤慨したときに発する語(「うぬ、失敬なやつだ」)、
と意味が重なる。「おのれ」が、「オノ+レ」なら、
onore→unu、
よりは、
ono→unu、
と「o→u」転換と見ていいのではないか。貶め度が高まる。「うぬぼれ(己惚れ)」の「うぬ」である。
一人称「おの」は、
おれ、
おら、
一人称「うぬ(己)」は、
うら、
にも転じる。「おら」は、
おのれ→おのら→おいら→おら、
と転じたと大言海はする。「おら」は、一人称で、
自分自身、
を指し、仲間や目下の者とざっくばらんに話す時に用いられる。「俺」「己」「乃公」などと当てる。
男性が用いるぞんざいな言い方の語であるが,近世江戸語では町人の女性も用いた、
とある(大辞林)。さらに、二人称として、
下位の者に対して,また相手をののしる時に用いる、
とあり、「爾」「儞」と当てる。
上代から中古へかけてはもっぱら二人称として用いられた。中世以降,一人称として用いられるようになり,特に近世以降は一人称の語として一般化した。これは貴賤男女の別なく用いられたが,近世末期以降は,女性には一般に用いられなくなった、
ともある(仝上)。
二人称「おのれ(汝)」は、
おどれ、
おんどれ,
おんどりゃあ,
と、さまざまに転訛しつつ、より罵り度を上げていく。「おどれ」「おんどれ」は、
河内言葉。やれ言うたんはおんどれやないかい。「われ」と同様、威嚇語としても使う。西日本では「おどれ」「おどりゃあ」「おんどりゃあ」が多い、
とある(大阪弁)。
参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:おのれ