まめ


「まめ」は、

忠実、

と当てる、

まめによく働くね、

の「まめ」である。当てた字の通り、

まごころがあること、まじめ、誠意、本気、

という意味である(伊勢物語「心もまめならざれば」)が、

労苦をいとわずよく勤め、働くこと(「まめに働く」)、

生活の役に立つこと、実用的(大和物語「車にてまめなるものさまざまにもてきたり」)、

の意味がある(広辞苑)が、今日は、「まめに働く」という意味がほとんどのようである。「誠実」の意味から、「勤勉」の意は広がるが、「実用的」の意味は、少し乖離がある。岩波古語辞典には、

(浮ついたところがなく)誠実、実直、まじめ(古今集「まめなれど何ぞは良けく刈るかやの乱れてあれど悪しけくもなし」)、
忠実(書紀「此の神また忠誠(まめ)ならず」)、
(趣味的・装飾的でなく)実用的(今鏡「まめなる物など乞ひ給ひて、車に積みて」)、
(身体が)達者、丈夫(方丈記「心、身の苦しみを知れれば、苦しむときは休めつ、まめなれば使ふ」)、

と意味が載る。この「実用的」の意味なら、「実直」「誠実」の意味の外延に入りそうである。「達者」は、「勤勉」とつながりそうである。

江戸語大辞典には、「まめ」には、

忠実、勤勉、息災、健康、

の意味しか載らない。こまめに働く人の意の、

まめじん(忠実人)、

言い回しが載っている。

岩波古語辞典には、この語源として、

マメヤカ・マメダチ・マメマメシなどのマメ。実意・誠意のある意。マ(真)とメ(目)の複合語か、

とある。「まめだち」は、

まじめな考え方、ふるまい(源氏「この君の、いたうまめだちすぎて」)、
まじめな顔をする(遊仙窟「いつはりて色を収め、まめだちて曰はく」)、

の意であり、「まめまめし」は、

いかにも本気である(枕草子「思ふ人の、人にほめらるるはいみじう嬉しきなど、まめまめしう宣うふもをかし」)、
まったく実用的である(源氏「花散里なども、をかしきさまのはさるものにて、まめまめしきすぢを思し寄らぬ事なし」)、

の意であり、「まめやか」は、

実意をもっているように感じられるさま、「まめ」よりはやや度合いのゆるい場合に使う、

とあり、

(浮気ではなく)誠実なさま(源氏「大方の人がらまめやかに、あだめきたる所なくおはすれば」)、
本当であること(源氏「まめやかには、おぼし知るところもあらむかし」)、
本格的であること(源氏「雪いたう降りてまめやかに積りにけり」)、
実用向き(源氏「をかしきやうにも、まめやかなるさまにも心寄せつかうまつり給ふ」)、

と、「まめ」の意味をなぞっている。

大言海は、

真実(まみ)の転かと云ふ、

とするが、意外とこれに類する説は多く、

マミ(真実)の転(名語記)、
マミアエ(真実肖)の義(日本語原学=林甕臣)、
真実の義(言葉の根しらべの=鈴木潔子・国語の語根とその分類=大島正健・日本語源=賀茂百樹)、
マミ(正身)の義(言元梯)、

等々。更に、「真」の字に関連させて、

真の義か(古今集注・俚言集覧)、
マは真の義、メはヘに通じ、フリの義(三部仮名鈔言釈)、
ミ(実)の転マ(真)から生じた語(国語溯原=大矢徹)、

という説もある。その他、

マジメの略(関秘録)、
マジメ(真面目)→マメ(忠実)(日本語の語源)、

とする説もある。意味から見ると、

マジメ→マメ、

はあり得るが、断定しかねる。日本語源広辞典は、

ママ(随)の音韻変化、

とするが、

上長の意のママニ随行することから、

との説明は、少し、「まめ」の用例から外れている。意味から考えると、

マジメ(majime)→マメ(mame)

と少数音節の脱落(日本語の語源)の例と見るのが、今のところ妥当かもしれない。似た例は、

ナツゴシ(夏越し)の祓い→ナゴシ(名越)の祓い、
おもしろい→おもろい、
のりこと(宣り詞)→のりと(祝詞)、
やっこ(家つ子)→やっこ(奴)、

等々、脱落例は多い(日本語の語源)。

参考文献;
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
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