「豆」は、
荳、
菽、
等々とも当てる。「豆」(漢音トウ、呉音ズ)は、
「象形。たかつきを描いたもので、じっとひとところに立つ意を含む。たかつきの形をした豆の意に転用された」
とあり(漢字源)、
大豆(中国では、黄豆)、
小豆(中国では、紅豆)、
緑豆(もやしにされる)、
の意とある(仝上)。
莢の中の種の称、
ともある(字源)。「菽」(シュク)は、
「会意兼形声。『艸+音符叔(シュク 小さい、小粒)』。小粒の実の意から、豆の総称」
とあり(漢字源)、「菽(シュク)は大豆である」(たべもの語源辞典)、とある。豆=菽であり、荳は、豆の俗字、とある(字源)。
まめに働く、
の「まめ」は、「まめ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/473354169.html?1580416347)で触れたように、
忠実、
と当てる。「豆」は、
マメ科に属する植物のうち、ダイズ、アズキ、ソラマメ、エンドウなど、実を食用とするものの総称、またその実、
とある(広辞苑)。ただ特に、
大豆、
をいう(和名抄)、らしい。
大豆は、中国が古代にわたって来たとも、日本と中国に自生していたツルマメが原種である、とされる(たべもの語源辞典)。ツルマメは、
ノマメ、
とも呼ばれる。
古代、現住していた人たちは、ダイズを主食としていた、という(仝上)。後期弥生遺跡には栽培していたことが分かっている(仝上)。
「まめ」の語源としては、
マルミ(丸味)・マロミ(円実)の義(日本釈名・滑稽雑誌所引和訓義解・東雅・名言通・柴門和語類集・言葉の根しらべの=鈴木潔子・日本古語大辞典=松岡静雄・国語の語根とその分類=大島正健・日本語原学=林甕臣・大言海・広辞苑)、
が大勢を占める。沖縄では、
マミ、
といい、
マル(マロ)→マミ→マメ、
といった転訛ということになる。
丸い実から芽を出すから、マ(丸)メ(芽)(語源辞典・形容詞篇=吉田金彦)、
モニタリング説といっていい。その他に、
旨き+実の意(日本語の語源・日本語源広辞典・語源由来辞典)、
がある。
uma+mi→mami→mame、
とする(仝上)。その他、
外皮に実 がはめられていることから「実填め(みはめ)」の短縮(語源由来辞典)、
マミ(馬子)の義(言元梯)、
マグレツク(塗付)などのマグ、マミル(塗)などのマミから、搦みつく、まとわりつくの意の動詞マムを推定し、その未然形ママからか(続上代特殊仮名音義=森重敏)、
等々。ひねくり廻すのは、語音に合わせようとしている感じで、如何かと思う。単純に、
まるい、
の印象から、というのでいいのではあるまいか。
「まめ」は、
オオマメ、
と呼ばれた。それを音読したのが、
ダイズ(大豆)、
である。
(大豆、日本の農業百科事典のイラスト(1804) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%80%E3%82%A4%E3%82%BAより)
「あずき」は、
小豆、
と当てるが、大言海は、
赤小豆、
と当て、
「醫心方『赤小豆(あかつき)』、成形図説(文化)『赤小豆(あずき)、赤粒木(あかつぶき)』などの義にや。キは草の義を表し、ハギ、ススキ、フフキ(蕗)等の語成分で、またキザスの語根」
とするが、
アは赤を意味し、ツキ・ツキが溶けることを意味し、他の豆より調理時間が短いことを意味していた、地方用語でアズ・アヅとは崩れやすいという意味であり、そこから煮崩れしやすいアズキと名付けられた(日本釈名・柴門和語類集)、
アは小の義、ツキはツムキと同語で、角がある意(東雅)、
アは赤、ツキはツク(搗)か。臼でついて用いることを吉とし、またもちなどにつくる故からか(和句解)、
アツキ(赤粒草)の義(言元梯)、
アカツキ(赤着)の義(名言通・日本語原学=林甕臣)、
豆木の湯桶読みツキか(日本語源=賀茂百樹)、
アヂケ(味饌)の転。うまい食物の意(和訓栞後編・日本古語大辞典=松岡静雄)、
イツキ(斎)から出た語か(語源大辞典=堀井令以知)、
アイヌ語でantukiという。アイヌ語が日本語に入ってきてアヅキとなったか、逆に日本語がアイヌ語に入ったか、両様の解釈が可能(外来語の話=新村出)、
朝鮮語pqt-ki(小豆)からか(植物和名語源新考=深津正)、
中国からdugという音が実物のアズキとともに日本に伝えられ、dugiとなり、清音化し、接頭語アが加わった(語源辞典・植物篇=吉田金彦)、
「本草和名(ホンゾウワミョウ)」(平安時代)には「赤小豆」を阿加阿都岐(アカアツキ)と記述しており、後にアズキとなった、
と諸説あり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%BA%E3%82%AD、日本語源大辞典)、日本語源広辞典は、
アヅ(味)+キ(重なり)で、味を引き立てるものの意、
とする。
しかし、「小豆」も、古く縄文遺跡から発掘されているほか、古事記に、
殺されたオオゲツヒメの鼻から小豆が生じたとする、
し、万葉集にも、
あづきなく 何の狂言(たはこと) 今さらに 童言(わらはごと)する 老人(おいひと)にして、
と、「あづきなく」(不当に)の「あづき」に「小豆」の漢字を当てており、奈良時代からあった(仝上)、と思われる。とするなら、知られていた「豆」、つまり、
大豆、
と区別して、
赤小豆(あかあづき)、
としたことは確からしく思えるが、どう訓み、どう転訛して「あづき」→「あずき」となったかは、はっきりしない。大言海の、すすき、フキの「キ」から、
アカツブキ→アカツキ→アヅキ、
といったふうな転訛が最もあり得るように思える。
「そらまめ」は、
蚕豆、
空豆、
と当てるが、慶長年間(1596~1615)に中国から渡来したが、「蚕豆」と当てるのは、
莢の形が成熟したサヤの形にているからとも、養蚕の時節に、成熟するから、
ともいい(たべもの語源辞典)、
「空豆」と当てるのは、
その実が空に向かってつくからである(大言海、仝上)、とされる。
参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95