2020年02月06日
でんぶ
「でんぶ」は、
田麩、
とあてる。「おぼろ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/444759095.html)で「でんぶ」に触れたが、「おぼろ」と似た「そぼろ」との区別を曖昧なままにしたので、ここでは、「そぼろ」「おぼろ」と対比しつつ、「でんぶ」の語源を考えてみる。
広辞苑は、「おぼろ」を引くと、「でんぶ」が載り、大言海、精選版日本国語大辞典、大辞林は、「おぼろ」を引くと、「そぼろ」が載り、同一視しているものが異なる。ある意味、三者は似ているのだろうが、たとえば、「おぼろ」と「てどんぶ」を区別して、
「『おぼろ』と『でんぶ』は、まるで別物です。おぼろというのは、海老(大抵は芝海老)、を、生のまますりつぶし、砂糖、酒、醤油、などで味付けし、鍋の中で手早くかき混ぜながら火を通したものです。海老の代わりに卵の黄身を使うと、黄身おぼろになります。
でんぶというのは、火を通した白身魚の身をほぐし、水にさらして脂抜きをし、蛋白繊維だけを取り出し、これを加熱しながら甘~く味付けしたものです。
おぼろは、ほんのり甘く、しっとりしていて、口の中で溶けますが、でんぶは、シャリシャリして、かなり甘く、口の中で溶けるということはありません。」
とする(https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1410632719)ものがあるかと思うと、
「そぼろと似ているものに、魚などをゆでて、すり鉢ですり、甘く味をつけた『でんぶ』がある。これは『おぼろ』ともいわれ、『そぼろ』は『おぼろ』より少し粒が粗いので、『粗ぼろ(そぼろ)』と呼ばれる」
とか(https://www.lettuceclub.net/recipe/dictionary-cook/218/)、
「より細かくほぐしたそぼろをおぼろ(朧)という。おぼろの例として田麩(でんぶ)がある」
とか(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%9D%E3%81%BC%E3%82%8D)、「でんぶ」と「おぼろ」を同一視し、より粗いものを「そぼろ」としているものもある。三者の区別は程度問題ということになるのだろうか。
「そぼろ」は、
「現在の乱切りを細かくしたようなそぼろ切りという切り方によってつくられたものである。『おぼろ』より粗めのものをいい、『粗おぼろ』が『そぼろ』に転じたという。そぼろには、魚肉を蒸して細かく砕いて乾燥したものというような意味もある。」
とある(たべもの語源辞典)。「乱切り」とは、不規則な形に切る切り方です。形は違っても大きさをそろえることがポイントらしい。「そぼろ豆腐」というのは、豆腐を蒸して細かく砕いたものをいう(仝上)、らしい。
「そぼろは、牛や豚や鶏の挽肉、魚肉やエビをゆでてほぐしたもの、溶き卵などを、そのままあるいは調味して、汁気がなくなりぱらぱらになるまで炒った食品。そのまま米飯にのせたり、ある種の寿司や弁当の材料として使用される。また、鶏肉のそぼろをダイコンやカボチャの煮物に用いたものはそぼろ煮と呼ばれる。より細かくほぐしたそぼろをおぼろ(朧)という。おぼろの例として田麩(でんぶ)がある。ちなみに、おぼろ昆布(薄く削った昆布)、おぼろ豆腐(固まりかけの豆腐)、おぼろ饅頭(皮を剥いた饅頭)のおぼろは、このおぼろではない。 芝海老のおぼろは伝統的な江戸前寿司には欠かせない種のひとつであり、寿司屋の玉子焼の原料としても用いられる」
ともあり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%9D%E3%81%BC%E3%82%8D)、
粗おぼろ→そぼろ、
と砕き方の荒いものを言う、ということらしい。
「おぼろ」は、
「タイ・エビ・スズキ・ヒラメなどの肉をすりつぶして、味醂・塩を少し加えて煮詰め、ボロボロにほぐして食紅で色をつけたものをいう」
とあり(たべもの語源辞典)、「おぼろ豆腐」は、豆腐を湯煮にして葛餡をかけたものである(仝上)。「おぼろ」の語源については、触れた(http://ppnetwork.seesaa.net/article/444759095.html)。
「でんぶ」は、
「タイ・ヒラメ・カレイなどの白身の魚や、またカツオでもつくる。タイのでんぶを作るには、蒸籠で蒸してから、水を入れた桶の中に取り上げ、骨皮などを取り除いて、精肉だけを移し、両手で揉んで布袋に入れて水を絞り、火に乾かす。これを『もみだい』という。これに味醂・醤油を加えて、煮あげ、火の上で乾かす」
とある(たべもの語源辞典)。あるいは、
「日本の田麩は魚肉を使うことが多い。三枚におろした魚をゆで、骨や皮を取り除いた後、圧搾して水気をしぼってから焙炉にかけてもみくだき、擂り鉢で軽くすりほぐす。その後、鍋に移して、酒・みりん・砂糖・塩で調味し煎りあげる。鯛などの白身魚を使用したものに食紅を加えて薄紅色に色付けすることもある。薄紅色のものは、その色から『桜でんぶ』と呼ばれる」
ともある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B0%E9%BA%A9)。
「古くは、『田夫煮物』のことをいい、汁気のないように煎りつけたものであるが、次に砂糖を加え、醤油・酒などで煮るようになった」
とある(たべもの語源辞典)。あるいは製法は、今日とは異なったのかもしれない。
面倒なことに、「でんぶ」は、
「江戸前寿司の店ではおぼろと称するほか、一部では力煮(ちからに)ともいうし、北海道の一部の地域などでは、単にそぼろと呼ぶ場合がある」
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B0%E9%BA%A9)し、
おぼろでんぶ、
という名で、市場に出回っているものすらある。が、三者は、今日、作り方が、確かに違う。
「そぼろ」は、
魚肉やエビをゆでてほぐし、味を付けながら、汁けがなくなるまで炒ったもの、
「おぼろ」は、
肉をすりつぶして、味醂・塩を少し加えて煮詰め、ボロボロにほぐしたもの、
「でんぶ」は、
蒸籠で蒸してから、骨皮などを取り除いて、手で揉んで布袋に入れて水を絞り、火に乾かすもの、
である。「でんぶ」は、
食感はシャリシャリ、
しているのであり、どうして、「おぼろ」「そぼろ」と同一視されるのかはわからない。ただ、今日の製法で、
まず「そぼろ」にする工程がある(以下、http://www.japanfoodnews.co.jp/tsukudani/debu1.htmによる)。
1・茹でる、2・蒸し篭で蒸す方法、3・焙る方の方法、のいずれかの工程を経た身の小骨、皮などを丹念に除きます。2の工程の場合は水でさらして脂肪を取り去り、圧搾して水分を除いたのちに肉を砕きよく揉み解して繊維状にします。
ついで、この「生そぼろ」から、「でんぶ」にしていく。
生ソボロをを釜に入れ、調味料(一般的に水飴、砂糖、醤油を主としてそれぞれの作り手の塩梅があります)をよく攪拌しながら煎りつけます。炊き上げたものを素早く冷風台に広げて、固まらないように揉みほごしして出来上がりです。
このプロセスで言うと、「そぼろ」「おぼろ」「でんぶ」は、一連のプロセスのどこで、製品化するかの違いのように見える。
ところで、「でんぶ」の語源である。
「古今料理集」(江戸期寛文・延宝年間(1670~1674))には、
「田夫は 色々をなべに入て酒をひたひたにさしてあまみの付程にとっくと煮て、其汁をよくしため〈略〉汁のなきやうに煎付て用る事也」
とある(https://japanknowledge.com/articles/kotobajapan/entry.html?entryid=2601)とあり、「料理綱目調味抄」(享保十五年(1730))に、
都春錦(としゅんきん)はでんぶなり、
とあり(たべもの語源辞典)、
ぞくにいふ田夫は、この略なり、
とある由で、「都春錦」は「でんぶ」の高級品だったらしい。しかし天明期には消えてしまったらしい。「でんぶ」を、
田夫、
と当てたのは、
「その切り方が、材料を大小不揃いで、わざと、めった切りにして、不手際に見えるように仕掛けて用いるので」
という(仝上)。「田夫」は、
農夫、
または
田舎者、
の意である。
田舎臭い、
洗練されていない、
野暮であること、
といった意味にもなる。
魚をバラバラにしてしまう、
のが不風流というので、
田夫、
と称した(たべもの語源辞典)。
その製品の本質から、
田麩、
とあてたのは、なかなかな見識と、たべもの語源辞典は評した。
参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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