朝ぼらけ


「朝ぼらけ」は、

太陽が地平線上にまだ昇っていない時、
朝がほんのり明けてくる頃、
空の薄明かりが朗らかに見える頃、

等々の意である(広辞苑、大辞林)。夜明けの意で、

ありあけ、
あかつき、
しののめ、
あさまだき,
あけぼの、

等々類語は多い。

「ありあけ」は,

月がまだありながら,夜か明けてくるころ,

だから,かなり幅があるが,

陰暦十五日以後の,特に,二十日以後という限定された時期の夜明けを指すが,かなり幅広い。

「あかつき」http://ppnetwork.seesaa.net/article/466141631.htmlは,上代は,

あかとき(明時),

で,中古以後,

あかつき,

となり,今日に至っている。もともと,古代の夜の時間を,

ユウベ→ヨヒ→ヨナカ→アカツキ→アシタ,

という区分した中の「あかつき」(因みに,ヒルは,アサ→ヒル→ユウ)で,

「夜が明けようとして,まだ暗いうち」

を指し(岩波古語辞典),

「ヨヒに女の家に通って来て泊まった男が,女の許を離れて自分の家へ帰る刻限。夜の白んでくるころはアケボノという」

とする(仝上)が,

「明ける一歩手前の頃をいう『しののめ』,空が薄明るくなる頃をいう『あけぼの』が,中古にできたため,次第にそれらと混同されるようになった」

とある(日本語源大辞典)。

「しののめ」は,

東雲,

と当て,

「一説に,『め』は原始的住居の明り取りの役目を果たしていた網代様(あじろよう)の粗い編み目のことで,篠竹を材料として作られた『め』が『篠の目』と呼ばれた。これが明り取りそのものの意となり,転じて夜明けの薄明かり,さらに夜明けそのものの意になったとする」

と注記して,

東の空がわずかに明るくなる頃。明け方,あかつき。あけぼの、

の意で,転じて,

「明け方に,東の空にたなびく雲」

の意とある(『広辞苑』)。また、

「万葉集に、『小竹之眼』『細竹目』と表記されて、『偲ぶ』『人には忍び』にかかる、語意未詳の『しののめ』がみられる。これを、篠竹を簾状に編んだものと考え、この編目が明かり取りの用をなしたところから、夜明けの意に転じたと見る説もある」

ともあり(日本語源大辞典)、

篠の目が明かり取りそのものの意となり、転じて夜明けの薄明かり、夜明け、

の意となった(語源由来辞典)、とする見方はあり得る。

「ありあけ」は,

月がまだありながら,夜か明けてくるころ,

だから,かなり幅があるが,

陰暦十五日以後の,特に,二十日以後という限定された時期の夜明けを指すが,かなり幅広い。

「あさまだき」http://ppnetwork.seesaa.net/article/442024908.htmlは,すでに触れたように,

「マダ(未)・マダシ(未)と同根か」

とあり(岩波古語辞典),

「早くも,時もいたらないのに」

という意味が載る。どうも何かの基準からみて,ということは,夜明けを基点として,まだそこに至らないのに,既にうっすらと明けてきた,という含意のように見受けられる。

「朝+マダキ(まだその時期が来ないうちに)」(日本語源広辞典)

で,未明を指す,とあるので,極端に言うと,まだ日が昇ってこないうちに,早々と明るくなってきた,というニュアンスであろうか。大言海には,

「マダキは,急ぐの意の,マダク(噪急)の連用形」

とあり,「またぐ」は,

「俟ち撃つ,待ち取る,などの待ち受くる意の,待つ,の延か」

とあり,

「期(とき)をまちわびて急ぐ」

意とあるので,夜明けはまだか,まだか,と待ちわびているのに,朝はまだ来ない,

という意になる。

「あげぼの」http://ppnetwork.seesaa.net/article/444607999.htmlは,「あけぼの」の「ほの」は「ほのかの」「ほの」で,

「ボノはホノカのホノと同根」

とある(岩波古語辞典)。「仄か」とは,

「光・色・音・様子などが,薄っすらとわずかに現れるさま。その背後に大きな,厚い,濃い確かなものの存在が感じられる場合にいう。」

のだという。また、

「『あけ(明)』と『ほの(ぼの)』の語構成。『ほのぼのあけ(仄々明け)』とも言うように、『ほの』は『ほのぼの』『ほのか』などと同源で、夜が明け始め、東の空がほのかに明るんでくる状態が『あけぼの』である。 古くは、暁の終わり頃や、朝ぼらけの少し前の時間をいった」

ともある(語源由来辞典)。どうやら,

「夜明けの空が明るんできた時。夜がほのぼのと明け始めるころ」

で,「あさぼらけ」と同義とある。

「あさぼらけ」は、

「夜がほんのりと明けて、物がほのかに見える状態」

とある(岩波古語辞典)。大言海に、

世の中を何に譬へむ旦開(あさびらき)漕ぎにし舟の跡無きが如(ごと)

という万葉集の歌が、拾遺集で、「朝ぼらけ」としている、とある。ちょうど朝が開く瞬間という意になる。しかし、日本語の語源は,

「アサノホノアケ(朝仄明け)は,ノア(n[o]a)の縮約でアサホナケになり,『ナ』が子音交替(nr)をとげてアサボラケ(朝朗け)になった。『朝,ほのぼのと明るくなったころ…』の意である。『ボ』が母韻交替をとげて朝開きになった」

と、大言海と真逆である。しかし、時間軸を考えると、

アサビラキ→アサボラケ、

なのではないか。

アサビラキ(朝開)の転。アケボノと混じた語(類聚名物考・俚言集覧・大言海)、
アサビラケの転(仙覚抄・日本釈名・柴門和語類集)、

とアサビラケ説に対し、

朝ホロ明けの約(岩波古語辞典)、
朝ホノアケの約(和訓栞)、

と、朝ホロ明け説があるが、これだと、ほぼ「あけぼの」と重なる。

「『あけぼの』と並んで(「あさぼらけ」は)夜が明ける時分の視覚的な明るさを表す語である。『あけぼの』が平安時代に散文語で、中世には和歌にも用いられるようになるが、『枕草子』春はあけぼの以降春との結びつきが多いのに対し、『あさぼらけ』は主に和歌に用いられ、秋冬と結びつくことが多い。『あさぼらけ』の方が、『あけぼの』よりやや明るいという説もあるが、判然としない」

とある(日本語源大辞典)。さて、

あさまだき,
ありあけ、
あかつき、
しののめ、
あけぼの、
あさぼらけ、

の順序はどうなのだろう。

「あさまだき」は、

「マダ(未)・マダシ(未)と同根か」

とあり(岩波古語辞典),

「早くも,時もいたらないのに」

という意味が載る。夜明けに至らないのに,既にうっすらと明けてきた,という含意のように見受けられる。だから、

あさまだき→あかつき・ありあけ、

となろうか。「ありあけ」は,

月がまだありながら,夜か明けてくるころ,

だから,かなり幅があるが,「あかつき」も、

「夜が明けようとして,まだ暗いうち」

と広く、たとえば、「あけぼの」と比べ,

「『曙』は明るんできたとき。『暁』は、古くは、まだ暗いううら明け方にかけてのことで、『曙』より時間の幅が広い」

とあるhttp://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1145636881。とすると,古代の、

アカツキ→アシタ,

の時間幅全体を「あかつき」「ありあけ」とみると,その時間幅を,細かく分けると,

しののめ,
あさまだき,
あけぼの,
あさぼらけ,

の順序が問題になる。「あさぼらけ」には異説はあるが、

「夜のほのぼのと明けるころ。夜明け方。『あけぼの』より少し明るくなったころをいうか。」(デジタル大辞泉)、
「『あさぼらけ』の方が『あけぼの』よりやや明るいと見る説もあるが判然としない(精選版日本国語大辞典)、

とあるので、

あけぼの→あさぼらけ、

とみると、『東雲』の位置だけが問題になる。

『日本語の語源』がは「しののめ」について,

「イヌ(寝ぬ。下二)は,『寝る』の古語である。その名詞形を用いて,寝ている目をイネノメ(寝ねの目)といったのが,イナノメに転音し,寝た眼は朝になると開くことから『明く』にかかる枕詞になった。『イナノメのとばとしての明け行きにけり船出せむ妹』(万葉)。
名詞化したイナノメは歌ことばとしての音調を整えるため,子音[∫]を添加してシナノメになり,母音交替(ao)をとげて,シノノメに変化した。(中略)ちなみに,イネノメ・イナノメ・シノノメの転化には,[e] [a] [o]の母音交替が認められる。」

と,「篠竹」説を斥けている。そうみると,「目を開けた」時を指しているとすると,「しののめ」が、

しののめ→あけぼの→あさぼらけ,

なのか,

あけぼの→あさぼらけ→しののめ,

なのかの区別は難しいが,一応,いずれにしても,人が気付いた後の夜明け時の順序なのだから,

しののめ→あけぼの→あさぼらけ,

を,暫定的な順序としてみたhttp://ppnetwork.seesaa.net/article/444607999.html。しかし、「しののめ」「あけぼの」「あさぼらけ」は、ほとんど時間差はわずかのように思える。

参考文献;
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
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書評;
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